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打ち上げが始まって1時間。
他のキャストさんやスタッフさん一人一人に挨拶をしていると、いつの間にかそのくらい時間が経っていた。
端っこの席でビールをグビグビと飲む。
ふと良平さんの方へ目を向けると、数人の女の子に囲まれていた。
むっ、と思うけど中には男の人もいるから…仕方がない。
腹いせにテーブルの上に置かれていたビールを飲んだ。
「あっ…！」
「…？」
すると、隣から焦ったような声が。
そちらへ顔を向けると、若い男の子が困ったようにこちらを見ていた。
「そ、それ…僕のだったんです、けど…」
「………えっ！！ごめん！」
どうやら私が飲んだビールは彼の分だったらしく、それで困った顔をしていたのだ。
返すと言っても吐き出す訳にもいかないので、店員さんに新しいビールを頼む。
「ほんっとにごめんなさい…」
「いやいや全然！僕なんて、影薄いんで…」
「…悩み事？ほらほらぁ、お姉さんに話してみなさいよ〜」
この発言をした瞬間、やってしまったと思った。
酔ってるからって、他人に軽々しく悩みを話せるわけないもの。
「なーんて…ごめんね」
「僕っ、新人で、音声の機材扱うのも、まだまだで…」
「…！」
「先輩にもお前は影薄いから離れて見てろ、って言われちゃって」
彼はどうやら新人の音声スタッフさんで、先輩からの厳しい言葉に落ち込んでいたみたいだった。
私にもそんなことあったなー。
先輩にちょっとした意地悪されたこと、よくあった。
他にも自分が嫌になって落ち込んだときも、あった。
…そんな時は……。
「"自分らしく居られたら、それでいい。…もし自分のために頑張れないなら、大切な人のために頑張ればいいよ"」
「え…？」
「なんて、カッコつけすぎかも」
ふふ、と笑いながらあの時のことを思い出す。
良平さんは私が落ち込んでいた時に、よくそうやって元気づけてくれた。
それは付き合う前から、ずっと。
「三倉さんって、優しいんですね」
「えぇ？そうかな」
「なんか…もうちょっと大人で厳しい方なのかと…」
「誰が子供よ」
すみません、と笑いながら謝る彼は、何かが吹っ切れたようだった。
そんな顔に心底安心する。
良平さんの言葉の受け売りだけど、それで彼が救わたのなら本望だ。
「じゃあ今日は飲もう！ほら、先輩のことなんて忘れて」
「…はい！」
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作者名：むぎ | 作者ホームページ：
作成日時：2021年9月28日 23時
