おうち時間 ページ12
ピーンポーン
見慣れたマンションのインターフォンを押すと、まだ寝起きなのかだらんとしたスウェットを着た良平さんが出てきた。
そんな姿に思わず吹き出す。
「ふふ、寝起きだ」
「ん…早く入って…」
「はーい」
良平さんとお付き合いをはじめて約6年。
何度か引っ越しをしたものの、未だ私たちはパパラッチというものに撮られたことがない。
運が良かったのか、そもそも疑われていないのか。
まあ確かに、小さい頃からずっと一緒の幼馴染みだからなぁ…。
「A？」
「びっくりした…」
なんてことを考えていると、私の前を歩いていた良平さんがこちらを向いて立っていた。
ごつん、と顎と額がぶつかりそうになるのを寸前で避けて良平さんの目を見つめる。
わー、綺麗な目。
「んー？キスしたいの？」
「寝起きはいや」
「んふ、言うと思った」
私をからかいたいのかふざけているのか分からない良平さんを軽くあしらって、ソファに座らせてもらった。
部屋は意外と整頓されている。
と言っても、時々一緒に掃除してるんだけどね。
「そうだ、あれ面白かった。肝試し」
「まじ？やった」
「うん。今度マイクラやってみたいかも」
肝試しというのは良平さんが最近コラボをしている方々と生配信をした"マインクラフト肝試し"のこと。
コラボ相手の中にはのぶも居て、良平さんも楽しんでいるみたい。
個人的にはもう少し叫んでもらいたかったなー、なんて。
「じゃあ今日やる？マイクラ」
「え。でも良平さん行きたい映画あるんじゃ…」
今日は2人で映画に行こうという約束をして私はここに来た。
映画は良平さんが前から見たいと言っていたもの。
だからお昼すぎには家を出ると思ってたんだけど…。
良平さんは「ん？」と笑う。
そして、
「俺はAが楽しんでたらそれでいいよ」
と、さらりと言ってのけた。
ぶわっと顔が赤くなるのがわかる。
何年経ってもこの顔とこの甘い声には慣れない。
声も顔も、まるで全部で私のことを"好き"と言っているようで。
「じゃあ…ゲームしたい、デス…」
「なんでカタコト？」
「良平さんのせいだから！」
「え、俺？」
うんうん、と頷くと困ったように笑った良平さん。
すると私の肩に手を回してこちらを見る。
思わず目を瞑ると、唇が重なった。
しまった…寝起きは嫌だったのに…！
また流された…。
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作者名：むぎ | 作者ホームページ：
作成日時：2021年9月28日 23時
