桜の花は、淡い恋色。２【鬼滅の刃】 (ページ32)

今日:19 hit、昨日:3 hit、合計:10,067 hit

残された者の宿命　其ノ陸拾玖ページ32

(きりがない・・・)

次から次へと湧いてくる鬼。

隣にいる炭治郎をそっと見る。

刀を握り締め続ける彼でも、呼吸が乱れていた。

(無理もないだろう。上弦の参を倒した後なのだから)

先程の上弦の参との戦いで、体力がほとんどない。

自分も刀を握り締め直すが、手に力が入らなくなっていた。

(・・・俺が炭治郎を守らなければ)

そう言い聞かせ、義勇は前を向いた。

(戦うんだ・・・。足を引っ張らないように)

義勇の背中を見て、炭治郎も立ち上がった。

(う・・・)

痛い。辛い。

そんな感情も押し込み、再び鬼に剣を向ける。

だが、身体が思うように動かない。

そんな時、後方の鬼が一気に炭治郎に襲いかかった。

「炭治郎！」

義勇の声に振り返る炭治郎たが、鬼は目の前にいた。

(駄目だ・・・。刀を握り直せない・・・！)

覚悟を決めた瞬間だった。

・・・ザンッ

誰かが降り立ったかと思うと、無数の鬼が横たわっていた。

(義勇さん・・・！)

義勇に感謝の目を向けるが、驚いた表情だった。

(え・・・？義勇さんじゃない・・・？)

「桜の呼吸、陸ノ型。舞い散る徒桜」

途端に桜が舞い、炭治郎は手をかざした。

(この桜・・・。懐かしい・・・)

義勇もふと刀を降ろした。

散った中に立っていたのは、Aだった。

「Aさん・・・」

驚く炭治郎に、Aは微笑んだ。

「やっと気づけたの。

　なんのために、錆兎が私を生かしたのか」

同時に、義勇の方も見る。

「錆兎の思い、やっと受け継ぐことができた」

義勇は優しく頷いた。

「A。呼吸の仕方、上手くなったな」

「えっ・・・。もしかして泣いてるの？」

「何言ってんだよ。俺は泣いていない」

「義勇さんって、Aさんの前だと雰囲気変わるんですね」

薄気味悪いこの場所に、三人の笑い声が響いた。

「きっかけをつくってくれたのは炭治郎くんだったよね。ありがとう」

「そんな・・・。俺は何もしてないですよ。

　きっと、錆兎も喜んでます」

炭治郎の言葉に、Aははっとした。

(そっか・・・。ここにいるみんなは、錆兎のおかげで前に進めたんだ)

Aは目を閉じ、愛しい彼に想いを馳せた。

ーー錆兎、大好きだよ。