桜の花は、淡い恋色。２【鬼滅の刃】 (ページ30)

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桜、零れて　　　　其ノ陸拾漆ページ30

「血鬼術・・・」

受け止めようと身構える鬼だったが・・・。

ーザシュッ・・・

白鳥のような舞が目に映り、気がつけば天井と床が逆になっていた。

「乱れる零桜・・・」

刀を納めたAの頬には、一筋の涙が伝った。

「あんた・・・」

振り返れば、頸だけになった鬼。

その目は、涙で濡れていた。

「やるじゃない・・・。
綺麗だった。今まで見た呼吸の中で、一番」

Aは歩み寄り、消えかける鬼の頭に手を置いた。

「人間の頃を思い出したの。
こんなあたしにも、本気で愛し合った相手がいた。彼は桜が好きで、いつも見に連れて行ってくれた・・・」

その声は、だんだんと細くなっていった。

「でも彼は殺された。濡れ衣を着せられて。死ぬ間際、あたしに言ったの・・・」

ーーお前の華やかさで、人々を笑顔にしてくれって。

「そんな・・・あなたも・・・」

普通は憎むべき鬼の存在。

しかし、Aの目には涙が溢れていた。

「私と同じ・・・。一人でこの想いを抱えていたのね・・・」

鬼は一瞬驚くと、すぐに微笑んだ。

「あんたならやれる。だから、みんなに笑顔を・・・」

と、鬼の頭は跡形もなく消え去った。

「あなたのおかげで取り戻せた。・・・ありがとう」

Aはその場に座り込んだ。

「錆兎・・・！」

安心、哀しさ、恋しさ・・・。

色々な感情混じり合い、声を上げて泣いた。

「私、大切なこと忘れてた。錆兎との約束、今まで果たせなかった」

あの日以来、刀が怖かった。

また誰かを失うんじゃないかって、不安だった。

でも・・・。

Aはそっと日輪刀に触れた。

この刀は人を守るためにあるんだって。

そう錆兎が教えてくれたじゃないか。

ーー自信持てよ。

空の上から、錆兎が語りかけてきた気がした。

ーー約束する。この刀でみんなを守るって。

「ふー・・・」

深呼吸をし、Aは隊士に駆け寄った。

「怪我は大丈夫？」

「大丈夫です。ありがとうございます・・・」

「そっか。とりあえず、安全な所に行こっか」

「Aさん・・・。素敵でした」

突然の言葉に、優しく微笑む。

「ありがとう」

隊士を支え、Aは歩き始めた。

一人の鬼殺隊士として。