桜の花は、淡い恋色。２【鬼滅の刃】 (ページ29)

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君の言葉　　　　　其ノ陸拾陸ページ29

(ぐっ・・・！)

警戒していた鬼も、次第に気づいた。

「もしかして、刀抜くのが怖いとか？

　・・・鬼殺隊なのに？」

後ろを見れば、苦しそうに顔を歪める隊士。

(私が倒さなきゃ・・・。私しかいない)

そう言って自分を言い聞かせるものの、何度もあの悲劇が蘇る。

ーー錆兎！戻ってきて！！

私が刀を握らなければ、鬼殺隊士になりたいと言わなければ、

錆兎は死ななかった。

この恋だって、結ばれていたかもしれない。

でも・・・・・・

Aは後ろの隊士を見た。

よほど怖かったのか、目をつぶって震えている。

助けたい。

無惨に少しでも近づいて、安泰の世にしたい。

鬼も、人間も、泣くことのない世の中を・・・。

「さっさとしてよ・・・」

「え・・・？」

声の主は、女の鬼だった。

「あんたの過去に何があったか知らないけど、見せてみなさいよ！あんたの呼吸を！！」

「・・・！」

Aの頭に一つの記憶が蘇った。

ーー「A。桜の呼吸、見せてくれないか？」

それは錆兎と鍛練をしていた時だった。

桜が咲き誇る中、二人は休んでいた。

「えっ？・・・いいよ！」

そう言ってAは小さな身体で構える。

「桜の呼吸、伍ノ型・・・。乱れる零桜！」

季節は春。

桜吹雪と混じり合い、呼吸は目を見張るような美しさだった。

「こんなに美しい呼吸があるなんてな・・・。

　Aだから、なおさら綺麗に見える」

「もう、かっこいいこと言わないでよ。惚れるから・・・」

「え？もう惚れてるだろ？」

そうだけど、と頬を膨らませるAに、錆兎は優しく笑った。

「俺、Aの桜の呼吸を見ると心が穏やかになるんだ。
安心できるような・・・。そんな優しさに包み込まれる」

と、近づいてきた錆兎はAを後ろから抱きしめた。

ーーお前の華やかさで、全ての人を笑顔にしてくれ

「笑顔にするため・・・」

そっと刀に手をかけるA。

辺りには、数多の桜が舞う。

「桜の呼吸、伍ノ型・・・」

やがてそれは吹雪となり、髪をなびかせた。