色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ6)

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一瞬で、目の前の景色から色が無くなった気がした。

世界に薄い墨を落としたように、ジンワリとそれはモノクロになる。

自分の部屋に帰り、ノートを出してあの曲の歌詞を見直した。

「...フッ、こんなの歌えるかよ...」

自嘲してリングノートのそのページを千切り、浮かれきった歌詞を手入れして行く。

少しずつ書き直してたら何とも言えない女々しい歌詞になって、また一人で笑う。

「あ...大野さんに早く伝えなきゃ...」

歌詞が変わると、文字数なんかでメロディに嵌めるワードも変わる。
後夜祭までに会えるか分かんないから、ギターを抱えオレが歌ったデモを録音して翌朝大野さんちに郵送した。

「何、あれ」

彼から電話がかかって来たのは、二日後の夜だった。
日本の郵便屋さんは優秀だ。

「何って、歌詞変わったからよろしくね。ちゃんと新しい歌詞書いてるメモも入れてたでしょ？」
「それは分かってるよ。そうじゃなくって、どうしてあんなに方向性が変わっちゃってんの？って話」
「......気分？」
「こんな直前に気分だけで変えられても困るんだけど。歌うのおれなんだから、ちゃんと歌詞の意味を教えろ」

いつに無く、ちょっと語気が強い。

「...意味なんか何にも無いよ、だから気分だってば」
「あのさぁ」
「うん？」
「一人で悩むのが格好良いとか思ってんの？」
「はぁ？」
「全然格好良くないよ、それ。むしろ、格好悪い」

少し鼻に掛かった大野さんの声。
まだ少年のようなその声が、キッパリと言い切った。

「面倒臭いなぁ、何かあった事くらいこんな歌詞見たら分かんの！中途半端に隠されたら鬱陶しい！」
「何だよそれ、もっと優しい言い方あんだろ」
「優しくされたいんだったら、格好付けんな！面倒臭い、ニノが女の子だったらおれ絶対に付き合わないね！」
「はぁぁ！？オレだってお前がオンナだったら好きにもなんねぇよ、めんどくせぇ！」

沈黙。
その直後、どちらとも無く爆笑。

小さく一つ息をする。

「.....自分のモンにしたいって思う子がね、居たのよ」
「あ、話す気になった？」
「黙って聞けって」
「ふふっ」
「きっと、オレのモンに出来るんじゃないかなーとも思ってたワケ」

うんうん、と大野さんが相槌をうつ。

「だけど、オレ忘れてた」
「何を？」
「その子、10歳も年下でさ」
「...うん」
「しかも教え子だった」

電話の向こう、相槌が無い。

「現実を見た。我に返ったのよ」

大野さんが「そっか...」と小さく応えた。