色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ22)

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「結城が選んだのが君だったなら、オレは心から納得して身を引ける」

傷付いてる時が一番口説きやすいというのは、恋愛の定石だ。
それに、オレが彼女から離れようと思ったキッカケは彼なんだし。

だけど、自分勝手なもんだ。
今はそんな風に思えないし、この若者にだって嫉妬してしまう程。

「でももしオレが結城の恋人になったなら、誰かに盗まれるような隙はアイツに与えないよ」

自分で自分を奮起させてる、そんな感じだった。

加藤くんが、何かを考えるように俯いて段ボールを床に置いた。
そして視線を上げた彼の目に慈愛のような物を感じて、何だか胸が詰まった。

軍手の両手をパンパンと軽く叩き、自分の首を撫でながら口を開く。

「AKUTAGAWA」
「...え？」
「先生、あのお店好きですよね」
「何でそれ...」
「Aちゃんに、先生があの店に居る事教えたの俺ですから」

俺は嫌になる位にお人好しなんですよ、って彼は自嘲した。

「そこに居ます。Aちゃんは、AKUTAGAWAに居ます」
「......」
「先生を待ってます」
「......」
「きっとずっと、待ってます」

思わず店の外を見る。
真っ暗で、道行く人達は寒そうに身を縮めてる。

「いつまで待たせるつもりですか？」

加藤くんが、言う。

「俺が迎えに行っちゃっても良いんですか？」

口の端を上げた彼が、首を傾げた。

「悪いけど、それはさせられないよ。ごめんね」

頭を下げそう応えて、店の扉を開けると冷たい風が流れ込んで来た。

「自分勝手ですね」

振り返ると加藤くんが、笑ってる。

「自覚してるよ」

オレも笑って、寒空の中へ飛び出した。

走り出したい気分だった。

でもそうしなかったのは、気持ちまで先走ってしまいそうなのを止める為だった。

このままだとオレは、結城を見た瞬間に抱き締めてしまいそうだし

そんなコトしたら絶対に怖がらせてしまうし。

出来るだけ気持ちを落ち着けて、深呼吸なんかしながらAKUTAGAWAへと歩く。

何となく店の中に居るんだと思ってた。
だって、こんなに寒いんだし。

かじかむ指先をポケットに突っ込み、白い息を吐き出す。

明るくない街灯が続く道。

店の中に居ると思ったキミは、AKUTAGAWAの前に居た。

オレを見て、ジっと立っている。

ポケットの中で、拳をギュウっと握り締めたのはそうでもしないと想いが溢れてしまいそうだったから。

「...お待たせ...、なのかな」

キミの潤んだ目が

ゆっくりと瞬きをした。