色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ23)

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「...待ってなんか......」

結城が小さく呟いた。
揺れる目と、揺れる声で。

「...こんなの、待った内に入りません」

でも、その目は強くて、声も強い。

「待ってない、と」
「...はい」

それが本当の強さなのか、単なる強がりなのかオレにはちょっと分かんないけど

頬も鼻のてっぺんも真っ赤にしてるその顔は、『待ってない』と言うには無理があるように感じた。

結城の右手と左手を

結城の左手と右手を

ソっと繋ぐと、その手はヒンヤリ冷え切ってる。

「すっげぇ冷たいんだけど」
「......」
「氷みたい」
「......」
「嘘はバレないようにつきなさい」
「...嘘じゃ無い...」

そうだな、もしかしたらオレの手が熱すぎるのかもしんないもんね。
気付かれてなければ良いけど、すっげぇ緊張してんだよ？

「嘘じゃ無い...」
「はいはい」

気を抜くとオレの方が震え出しそうで、彼女の両手をキュっと包み込んだ。

そして、その冷え切った手を口元に持って行きハァ...と息を吹き掛ける。
何だか自分の気持ちも融け出しそうだ。

「...先生」
「ん？」
「私は、たくさんのトラウマがありました」
「うん」
「先生のせいで」
「ンフフ、うん」

オレがちょっと笑うと、結城はジロっと睨む。

「雨の日が大嫌いになりました」
「うん」
「雷は、元々嫌いだったのにもっと嫌いになりました」
「うん」
「気が付いたら、ビニール傘も大嫌いになってました」

オレがどれだけ結城を傷付けてたのかを、思い知らされる。

「ミルクティーも飲めなくなって、好きだったのに」
「うん」
「...でも、飲めるようになったしまた好きになれた」
「そっか」
「雨も雷もビニール傘も、好きになれた。...あ、雷はちょっと嘘。まだ怖い」
「フフッ。うん、そうか」

その言葉達に安心して、無意識に「あは」と笑いが零れてしまった。

「でもまた今日、新しいトラウマ出来ちゃうのかなってちょっと不安だったんです」

あまり口を開かずに喋る結城の口元から、白い息がふわりと溢れる。

「寒さが...嫌いになっちゃうかもなって...」

凛としていた結城が初めて、その表情を変えた。

何とも言えない気持ちになって、オレは握り続けてた彼女の両手にもう一度息を吹き掛けた。

どうかこの寒さを、良い想い出にして欲しい...と願いを込めて。