色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ16)

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キミが胸元に抱いてる上着を取って、その肩に引っ掛けてやる。

そして、その上着ごと自分の方へと引き寄せた。

何も構えてなかったキミの身体は簡単にオレの胸にトンとぶつかって

オレの肩に、キミの頬が当たって

オレの顎に、キミのオデコが当たった。

「上着も着ずに...寒いでしょうよ」

そんな必死に追いかけて来て...オレにはそんな価値無いよ。

小さな身体が震えてる。
本当は思い切り抱き締めてしまいたいのに、オレは上着をギュっと掴むだけ。

「...寒くなんか...」
「風邪ひかれると困る」
「先生が困る必要はあ、り...ませ......っ」

キミの声が、涙混じりになったのが分かった。

「ごめんな」
「...ど...して、謝るんですか...」
「ごめん」

片手を背中に回して、ポンポンと軽く叩いて

そっとその身体を、離した。

驚いたように開いたキミの目から、大きな涙が零れ落ちた。

「こうゆーコトだよ」
「......」
「自分の欲を制御できなくなる」
「...そんなのしなくって良い...！」
「馬鹿だね。オンナノコがそんなコト言っちゃ駄目でしょ」

その涙を親指で拭ってやると、キミは余計に泣いて。
その涙に、自分の暴力的な部分が暴れ出しそうなのが分かった。

「これ以上はオレ、自分が何しでかすか分かんない」

だから、一緒には居られない。

「結城は、真っ白だから」

優しくなんか、なれないから。

「汚したくない」

せめて、これが正解なんだと思わせて。

「...先生...」
「お前にそう呼ばれると、何が聖職なんだって...この職業を呪いたくなる」

もっと違う出逢い方だったら？なんて、もう何度考えた？
その度に出逢い方が違ったって年齢の差は同じだろうがって、自分を嗤ってた。

「早く帰りなさい。気を付けて」
「......」
「じゃあ、ね」

背中を向けて、歩き出す。

もうキミも追いかけて来ない。

寒くて寒くて、歯がカタカタと鳴った。
でも、何故か手は熱かった。

「...ばーちゃん」

家に入って来たオレを見たばーちゃんは、「カズ君、死にそうな顔してるけど」と笑った。

「激甘の紅茶飲ませて」
「...そうね、こんな寒い夜は甘い物が良いわね」
「ばーちゃんはいっつも甘いのしか飲まないでしょ」

死にそうな顔になってる理由なんてひとつも訊かないばーちゃんとオレは、向かい合ってロイヤルミルクティーを飲んだ。

甘い紅茶が、想いと一緒に胸に溜まる。

胸に入りきらなくなったそれは、透明な雫になってテーブルに落ちた。