色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ12)

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AKUTAGAWAに通い出して、自分のリズムが戻って来た。

日曜には車で自分の家から出て、AKUTAGAWAでコーヒーを飲みながら本を読む。
時々、帰りに車を出す前にばーちゃんに声掛けてちょっと喋ったり。

あの個性的な青年は店のオーナーだという事も知った。
関西訛りのおっとりした話し方は嫌いじゃ無い。

もう軽く常連みたいになって、本棚の本も結構読んで、その日はこないだ買ったばっかの文庫本を持って行ってた。

初めて来た時に座ったあのソファが空いてたから、沈み込むように座る。
いつもブラックを頼むから、オーナーはオレが座ると何も言わずにブラックを持って来てくれる。
今日のカップは濃紺で渋い。
先週は真っ白だっけ。

活字を目で追いながら、コーヒーに口をつけて、また活字を追う。

完全に脳みそは本の世界にトリップしてて、傍に人が立った事すら気付かなかった。
...気付いたからって、何も出来なかったと思うけど。

「......先生」

空耳だと思いたかった。

でもオレの耳は、何ヶ月振りかに聴いたその声を簡単に拾ってしまった。

「...何...してんの、お前...」

視線を上げると、そこには少しだけ髪が伸びたように見えるキミが立っていた。

文庫本をテーブルに置いたのは、手から滑り落ちてしまったからだ。

「あ...栞してねぇし...」

思わず打ってしまった舌打ちにキミが肩を竦める。

「あぁ...悪い、お前は悪くないよ」

悪くは...無いんだけどね。

「どした？突然...ビックリするでしょうが」
「先生...」
「うん。何よ」

笑ってても、キミの顔が見れない。
オトナの余裕なんて、ちっとも出て来ない。

「先生...」
「ンフフ、だから何よ」
「...会いたかったです...」

小さな声だったんだと思う。
消えそうな、そんな声だったと思う。

だけど、その声にオレの心臓は鷲掴みされたみたいに痛くって

とにかく、痛くて。

「...何言ってんの」
「......」
「そーゆー事、簡単に言っちゃだめでしょ」
「先生...酷いよ...」
「うん。そうかもな」
「酷いよ...」
「うん。そう思ってて良いよ」

オレは立ち上がって、一つ息をする。

「オレの事、酷いって思ってて良いよ。そんで、その内、そんな奴も居たなぁ...程度に忘れてくれたら良いから」

キミは、潤んだ目でオレを見てて

あぁもう、オレは何度コイツにこんな顔させてんだよ...って情けなくて。

気持ちとは裏腹に、ニッコリと笑って見せた。

絶望させてやろうと、思ったんだ。