色恋戦線 2nd【ars K.N】 (ページ13)

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文庫本と伝票と上着を持って、キミに背中を向けた。

「待って！先生！」

オレの背中にキミが叫ぶ。
信じらんない位、でっかい声。
お客さん達にめっちゃ見られてんだけど。

レジのオーナーも、心配そうな顔でオレを見る。
財布を開くと、運良くコーヒー代がピッタリ入ってたからそれをジャラと出して「ごちそうさまー」と、店を出た。

「先生！待って、先生！」

店を出ても、キミが後ろからずっと呼び掛けて来る。
何度も、何度も。
ちょっと咳き込んだりして、苦しそうな声で。

「先生...っ！！」

でも立ち止まらずにそのまま歩いてたら、凄い力で腕を掴まれた。

「...何だよ、お前...」

......何なの、ホント...

「勘弁してよ...」

こんなコトされたら、オレのグラグラな決意なんて簡単に壊れんだよ...

「花嵐堂ね、オレすっげぇ好きな場所だったの」
「......」
「なのに何で行かなくなったか、お前には分かんないの？」
「......私に...会いたくないから...？」

泣きそうな顔で、キミがオレを見上げる。

「よく分かってんじゃん」
「......」
「オレは、お前に会いたくなかったの」

会いたくなくて、会いたかった。
でもやっぱり、会いたくなかった。

会いたくなんて、なかった。

「もう良い？」

掴まれてる腕を指差して、そう問うたけどキミは全く手を離そうとしてくれない。
ギュっと一文字にしたキミの口が、少し震えてる。

大袈裟に溜息を吐き出す。

「オレはね、お前と会いたくなかったから店に行くのやめたの」
「......」
「何？他に何か知りたい事でもあんの？」
「...先生は...」

腕を掴んでる力が強くなって、「いてぇよ」って笑ったけどキミは少しも笑わなかった。
それどころか指先にはもっと力が入って、その表情も痛々しい位だ。

「先生は...どうして私に会いたくなくなったんですか...？」
「......」
「私、先生と仲良くなれたのかなって思ってたのに...」
「仲良く...ね」

オレも思ってたよ。
仲良くなっちゃったなぁ...って。

こんなに歳も離れてる女の子なのに、参ったなって

浮かれちゃってたよ。

「言ったでしょ？自分が教師だってコト、思い出したって」
「......」
「それがお前と会いたくなくなった理由」
「...全然分かりません...」
「分かんなくっても良いよ」

腕を掴んでるキミの手に触れると、驚く程に冷たかった。

その手を握って、自分の腕から離す。

心も一緒に引き剥がされたら良いのに...と思いながら。