色恋戦線【ars K.N】 (ページ27)

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ビルの向こう側には、花火が上がり続ける。

「先生は、あっち側には行かないんですか？」
「面倒でしょ」
「面倒？人多いからですか？」

キミはちょっと面白そうに、オレの答えを待つ。

「まぁね。あんなトコ行ったら間違い無く生徒が居るもん」
「居る、でしょうね」
「見付けちゃったら、一応形だけでも注意しなきゃいけないでしょ？」

ポカリを飲み干して、空になったペットボトルを足元に置く。

「学校から離れたら、ちょっと忘れたい」
「...忘れる？」

煙草を出して、唇に挟む。

「自分が教師だってコト」

キミはきっと、オレが単純に学校離れてまで生徒の監視するのが面倒臭いからだと思っただろうね。

言葉の裏には、色んな意味が隠されてんだよ？
特に色恋絡みだとね。

人は、嘘つきにもなるし、正直にもなる。

暫くすると、花火は一際華やかになった。

所謂フィナーレってやつだろう。

その内、空は真っ暗になり遠くから聴こえてた音も途絶え、辺りはシン...と静まり返った。

吸い殻をペットボトルの中に押し込んで

「春は桜で、夏は花火か」

キミと一緒に見た景色を思い出した。

思わず呟いてしまったその言葉に、焦って続きを付け足す。

「秋は...そうだな、月、かな」
「あ、季語ですか？」

キミなら気付くだろうと思って話せば、察してちゃんとその通りに受け取り返してくれた。

その事に、何だか胸が擽られた気分になる。
好きな物が同じだと言うのは、互いの距離感を近付けてくれる。

「お前なら冬は、何だと答える？」
「冬は...、風花」

その答えに、思わず息を飲んだ。

想像の斜め上だ。
ちょっと、ゾクっとした。

「へぇ、雪って言わないんだ」
「単純すぎるって言われそうだから」
「ンフフ、そう言う準備してたんだけどな」

実際『雪』って答えだったらオレはそう言っただろうし。

「冬は『風花』かぁ...」
「はい。綺麗な言葉だし」
「そうだな」

どこか嬉しそうにキミは季語の話をする。

「結城」

名を呼べば、目をクルンと開きオレを見た。

「まだ日本語、ちゃんと好きなんだな」
「...先生の授業のお陰です」
「マジで？フフッ、ちょっとカンドーすんね、そんな事言われると」

教師としては、嬉しい言葉なんだけど。
もっと違う出逢い方だったら、どうだったんだろう...って少し考えてしまった。

歳の差も『元教え子』って関係も、どれもこれも無くなんないのに。

そんなの、考えたってどーにもなんないのにね。