色恋戦線【ars K.N】 (ページ25)

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「花火は好きです」

キミがそう言うから、何だか学生時代を思い出した。

「見る？」
「え？」
「花火」
「あー...もうすぐ始まりますよね。桜公園に寄ってチラ見して帰ろうかな」

公園の方向を見て呟くキミに、心の中で「そうじゃねぇよ！」とそれこそガキみたいに突っ込んでる自分に驚く。

「公園より見える場所、あるよ」
「...え...」
「教えてやろうか？」

普通に『一緒に見る？』って誘えば良いのに、それが出来ない。

捻くれてる訳じゃ無い。
そういう訳じゃ無くて。

...相手が、悪いわ。

もしキミがオレと同世代だったら

いや、オレがキミと同世代だったら

何も考えずに、むしろ強引に誘えるのに。

「ご褒美だよ。今日、お前頑張ってたから」

『ご褒美』だなんて、白々しい。
よく考えたらキミは別にオレと見たいなんて思ってないかもしんないのに。

...やっぱりやめとこう。

冷静になったら妙に格好悪く感じて、取り消そうと思ったんだ。

「...ご褒美...」

なのに、また。

無防備にそんな顔を見せるから

「おいで」

返事も聞かずに、さっきの決意も忘れて半ば無理やりのような形でキミを連れて行く。

どうにでもなれ...とは思えないけど、花火なんて特別な事やってる日だから「先生、浮かれてるのかな？」位に受け取って貰えたらと思ってた。

きっと想像してたであろう場所とは全然違う場所に連れて来られたキミは、不安そうにしてる。

花火の音と、鉄製の階段を上がる音が響く。

大学の時にバイトしてたカラオケ屋が入ってたこのビルの非常階段は、オレのサボリ場所の定番だった。

ハタチそこそこで既にもう辞める事なんて出来ない程に肺とお友達になってた煙草を燻らせて、ビルとビルの隙間の空を見上げて「早く帰りてぇなぁ...」と思ってた日々。

そんな毎日の中、ここで花火を見た日の事は今でも覚えてる。

ここから花火が見えるって事は知られてないのかもしくは誰も興味が無いのか、オレ以外には誰も居なくて

空を独り占めしてるような錯覚に口が開いて唇に挟んでた煙草が、ポロンと落ちた。

誰にも教えてやるもんか、と決めた。

バイト仲間にも、絶対に内緒にしておこう。
オレだけの場所だ。

そう、決めてた場所でキミと並んで花火を見上げる。

キミは嬉しそうに夜空に咲く花を見ては「綺麗！」と感嘆の声を上げる。

ねぇ、そんなに鼓膜を擽る声をしてたっけ？

するりと耳の中に入って来て、胸の奥を直接触られてるみたいだ。