色恋戦線【ars K.N】 (ページ22)

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それは花嵐堂にキミが居ると知ってから、二度目の日曜。

恩師でもある桜井先生の本を読んでいた時。

「先生...」
「んー？」
「......桜...」
「桜？」
「今年の桜は...見ましたか？」

その質問に座ったままキミを見上げると、キミの目はジィっとオレを見ていた。

「見たよ。オレの職場、学校よ？学校って桜が付き物でしょ。入学式、桜の下でみんな写真撮るじゃん」
「あ...ハハッ、そうですね」
「何で？」
「え？」
「何でそんな事訊いた？」

逆にこっちから質問すると、キミは少し慌てたように視線を動かす。

「桜がいっぱい咲いてる公園がこの近くにあるんですけど...」
「あー...あるね、そう言えば。そっちは通んないわ」

駅の方向にある桜公園だな。
そう言えばいっつも車だから今年は桜公園の桜、見てないな...

「先生はもう見たかな？って...もう散っちゃうよ、って思ったんで...」

儚い物を憂うような表情で、キミが言う。

桜か...

オレにとってそれはもう、景色になってた気がする。
咲いた時こそ「おぉ、綺麗だ」と思っても散る時はあまり気にもしてなかった。

「桜、見に行く？」

キミを誘ったのは、単純に『一人で見るのもなぁ...』と思ったからだ。

オレの言葉に、キミは驚いたように目を開いた。

「桜、もう散っちゃうんでしょ？」
「...はい」
「だから見に行っとくか？って」
「...え？何を...」
「だから桜を。オレ、そんな難しいコト言ってないだろ」

無理問答みたいになってるのが可笑しくて、笑ってしまう。
眉間に皺を寄せて何かを考えるようにしてるキミ。

あぁ、困らせちゃったかな。

「まぁお前にも予定があるか」

そりゃそうか。
突然誘われても困るよな。

ま、でも良い機会だしちょっと夜桜でも見て帰るか。

そう思って、店の出入り口の方へ歩き出すと

「...あっ！待って下さい！」

思いっきり服を掴まれた。
犯人はもちろん、キミで。
でもすぐにパッとその手を離した。

「...行きます」
「行くの？」
「この後の予定は無いです...」
「じゃあ、公園で待ってるわ」
「...はい」
「また後で」
「また後で...」

ペコリと頭を下げたキミに、オレは手を振って店を出た。

ばあちゃんちとは逆の桜公園の方へと歩く。

風が

静かに、頬を撫でて行く。

「...見事だな」

学校にある数本の桜とは違って、公園内いっぱいに咲いてる桜は壮観だった。
加えて夜桜になると、その花は雰囲気を変える。

「相変わらず怖ぇ」

小さく笑う。