色恋戦線【ars K.N】 (ページ18)

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「おめでとう」

拳にした手を、その言葉と共に下ろす。

「...意地悪なのは...先生です」

彼女が小さな、でも強い声で言った。

「......結城...」
「先生」
「ん？」
「ご褒美が、欲しいです」

言われた言葉が、予想外で何も言えない。

「受験、頑張ったご褒美を下さい」

何の迷いも無さそうな目が、ジィっとオレを見詰める。

真っ白な想いが、ジリっとオレの胸を焼く。

「分かった。おいで」

オレが歩き出すと、結城もついて来た。
背後からパタパタと上履きの音。

国語準備室に連れて来るのは、残酷かもしれないと思った。

でも彼女は何も言わず部屋に足を踏み入れた。

「座って良いよ」
「はい」

結城がソファに腰掛けてる内に、冷蔵庫からミルクティーのペットボトルを出す。

...大人ってズルいよな。

「お前のご褒美って言ったら、これだろ？」

そんなワケ...無いよな。

ペットボトルを受け取ろうとしない結城の膝に、それをソっと置く。

「...違う」

結城の声は震えてた。

「欲しいご褒美は、これじゃ無い」

そうだった。
何となく濁して誤魔化せるような子じゃ無かった。

ズルいオレの思惑なんて、あっという間に砕かれる。

「オレにはお前にあげられる褒美と、あげられない褒美がある」
「......」
「あげられるモンなら、やるよ」

その答えによっては、これまで以上に彼女を傷付けるかもしれないのに

どうしてこんな事をいってしまったんだろう...って、言った直後に後悔した。

なのに

「...私も...頭、撫でて欲しかった...」

彼女が涙をボロボロと零しながら強請った褒美は、そんな些細な事で

...いや、彼女にとっては些細じゃ無かったんだ。

オレはきっと、こうやって何度も何度も結城に小さな傷を作ってたんだ。

「そうだよな...」

さっきとは違う、何だか得体の知れない後悔にまた襲われながら結城の頭をポン、と撫でた。

「よく頑張った」

ヒックヒックと肩で息をしてる彼女の頭を、ポンポンと撫で続ける。

「先生は...ずっとずっと、意地悪でした...」

涙声が、ポロリと落ちた。

オレは、意地悪だしズルい大人だ。

出逢わなければ良かったね...と、思った。

オレと出逢って、結城はどれだけ泣いた？
どれだけの傷を抱えた？
どれだけの辛さと戦った？

出逢わなければ、痛みなんて何も知らずにいられたのにね。

「かもしんないね」

オレと結城のこの出逢いに、意味なんてあったのかな...。