色恋戦線【ars K.N】 (ページ20)

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「先生」

泣いてるキミが、鼻を啜って顔を上げた。

「はい、何ですか？」
「私、いっぱい傷付きました」
「......」
「先生のせいです」

そうだね。
18歳の女の子には、抱えきれない位の傷をオレは与えてしまったと思う。

もし自分が高校生の時に...って考えたら、そんな恋辛すぎて耐えられなかっただろうと思う。

「先生のせいで、悲しかったし、苦しかったし、悔しかったし、いっぱい泣きました」
「うん」
「でも、泣いたら子供だって言われるから必死で我慢しようと思ったけど出来なくて...」
「うん」
「何かもう、息するのも...しんどかったです」

スカートをギュウ...っと握って話すキミから、目が離せなかった。

「私は...先生が大嫌いです」

うん、それで良いんだよ。
そう思っても、胸の奥の方がチクンと痛んだ。

「......って、最後まで言えないのが悔しいです」

そう言ったキミは、本当に悔しそうで

苦しそうで

オレの前に居ると、本当に息をするのもしんどかったんだろう...と思った。

「...何で...先生なんですか...何で、こんなに歳上なんですか...何で...」

オレの中でパチンと壊れたのが、一体何なのかは分からない。

だけど、キミを抱き締めてしまったのは、確かに何かが壊れたから。

「ごめんな」
「せんせ...」
「オレが出来るのは、これが精一杯だ」

これが正解では無いって事くらい、分かってる。
だけど、考えるより先に腕の中にキミを閉じ込めた。

「大学入ったら、オレなんかよりずっとイイオトコがいっぱいいるよ。これが本当の恋なんだなって、分かる日が来るから」

誰に言い聞かせてるんだろう。
それももう、分かんなくなってた。

「お前は、きっとイイオンナになる。安心して、大人になりなさい」

腕の中で、キミは小さな嗚咽を漏らす。

「先生は...やっぱり意地悪です...」
「...かもしれないな」
「本気だったのに...」
「それは勘違いだよ」
「...まだ言うんですか...」
「そう、思っておいた方が良いよ。きっと」

キミだけじゃなくて

オレも。

「卒業、おめでとう」

・

あの時、他の生徒に対する感情とは別の感情がキミにあったのか？と問われると

そうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

だけど、キミの言葉ひとつひとつに胸が震えるようだった。

オレの事なんて忘れた方がキミは幸せなのに。

恨んで欲しい、憎んで欲しいと思ったのは

きっと、オレの罪。

最後までズルい、オレの罪。