その後１ ページ26
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太宰は一人､浜辺を歩いていた｡
本当は近寄りたくもなかった浜辺に｡
彼女が居なくなってしまった場所｡
彼女とのたくさんの思い出と共に現実を突きつけられてしまう｡
けれど此処に来ないと､どうしても彼女に逢えない気がした｡
｢……A｣
もう居ない愛おしい彼女の名を呼ぶ｡
本当に彼女は荒れた海に飛び込んだのか？
あの靴は態と此処に置いて何処か違う場所へ行ったのだろうか？
……どちらにせよ､もう八年も行方知らずだ｡
森さんも仕事そっちのけで必死になって探した｡
彼女(男装時)を慕っていた構成員達も総出で探したがそれでも見つからなかった｡
｢……私も一緒に……連れて行って……くれれば……｣
思い返せば彼女の様子は可笑しかったかもしれない｡
慥か誕生日の一週間前辺りから｡
何かを決意したような目をしていた｡
その決意はこれからもずっと生きていくという事だと思っていたが───違った｡
｢……また来るよ｣
海に花束を投げて微笑む｡
遠くへ投げた筈の花束は波に乗って太宰の足元へと戻って来た｡
｢……A……戻って……きてくれ｣
花束を抱えて蹲る｡
毎年､この日は本当にらしくない｡
けれど
｢……愛って素敵ね｣
真横から可愛らしい声が聞こえた｡
しかもその声はずっとずっと聞きたかった……
｢あら？なんて顔をしているのかしら｡貴方らしくないわ｣
｢……君は……違う｣
金髪の少女は太宰に向かって頭を深く下げた｡
｢ごめんなさい､貴方を苦しませてしまって｡けれどもうその苦しみも解放されるわ｣
｢……何を云って……｣
｢彼女は生きている｣
ザァッと波が荒れ始めた｡
太宰は花束を握り締めて少女を睨む｡
｢生きている？巫山戯るな｡何を今更……｣
｢本当よ､嘘なんてもう……吐かないわ｡ずっと八年間､目を覚まさなかったの｣
八年も行方不明だった彼女が急に生きていると云われて嬉しい半面､まだ不信感は強い｡
｢彼女は何処に？｣
｢……此処よ｣
紙を手渡され､見る｡
簡単な地図だ｡
しかもこの場所からそう遠くない｡
｢早く行ってあげて｡あの子も貴方に逢いたがっているわ｣
太宰は最後まで言葉を聞かずに花束を持って走り出す｡
金髪の少女───舞姫は柔らかい笑みを浮かべ見送った｡
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作者名：らしろ | 作成日時：2020年8月10日 1時
