第七十二話「護らせて」 ページ23
目を覚ましたのは見慣れない部屋｡
物はあまりない質素な部屋だ｡
上半身をゆっくり起こす｡
サラリと黒い髪が肩から流れる｡
……黒い髪？？
『あれ？黒……え？声も……違う？』
｢あら？その声も素敵よ｣
『うわっ！？』
急に目の前に現れた金髪の少女に私は驚きの声を出す｡
しかしその少女にとても見覚えがある｡
『……舞姫？』
｢そう､驚いた？｣
『な､何が……如何なって』
｢簡単に云うと貴女は元の姿になって｡私は異能生命体になったって事かしら｣
とんでもない事をこの子はさらりと云った気がする｡
異能生命体？
それってエリスみたいな？
『……え､じゃあ､何で異能に？』
｢うぅん､詳しくは判らないわ｡それはあの溝の鼠に聞かなきゃ｣
彼女から殺気が滲み出る｡
一般人の私からしてみれば体が震えそうな殺気だ｡
｢……説明はこれくらいにして｡A｣
『あ､え……はい』
｢……本当に申し訳ありませんでした｣
急に彼女が土下座をして謝った｡
一瞬､ポカンとそれを見ていた私は慌てて止めるように云う｡
『大丈夫だから！頭上げて！』
｢貴女は私の為にたくさんの事をしてくれた｡私の自分勝手で貴女はこの世界に来たのに……貴女は私を救ってくれた｣
『……舞姫』
｢感謝してもしきれない｡謝ることしか出来ない私だけど……だけど､護らせて欲しい……貴女を｣
彼女の赤い瞳が私をじっと見る｡
とてもとても強い瞳だった｡
舞姫は私に手を伸ばす｡
『……うん､判った』
私は頷いて舞姫の手を取る｡
……あぁ彼女はここにいる｡
やっと実感できた｡
異能生命体でも彼女は目の前にいる｡
触れることが出来る｡
『じゃあ森さんに逢いに行かなきゃ｡あ､今何時？』
｢……あ､えっとその事だけど｣
『ん？如何したの？』
何か云いにくそうな舞姫に私は首を傾げる｡
もしやまだ森に逢いたくないなんて云いだすのか？
｢舞姫､どんな姿であれちゃんと向き合わなきゃ駄目だよ｡大丈夫､きっと森さんも判って｣
｢あ､違う！そうじゃなくて｣
舞姫はパタパタと隣の部屋に走って行った｡
不思議に思い舞姫が通った扉を見つめていると舞姫と誰かが這入って来た｡
｢おぉ目が覚めたか､小娘｣
『……え？』
見慣れたおじいさんに私は開いた口が塞がらなかった｡
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作者名：らしろ | 作成日時：2020年8月10日 1時
