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第六十八話「名前を呼んで抱き締めて」 ページ19

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晴れ渡る青空をぽけぇと眺める。


最近は晴天続きで気分が晴れやかになる……と
思ったがそうでは無い。





「────明後日ね、Aの誕生日!!」




エリスにそう云われハッとする。


大きな硝子壁から外を見ていた視線をエリスに戻してそうだね、と返事をした。



目の前には大きな口を開けて美味しそうにチョコレェトケェキを食べるエリス。


そしてそれをニコニコと顔を弛めながら眺めるマフィア首領。




「誕生日の贈品(プレゼント)は決まったかい?」




森は私に視線を向けてニッコリと笑う。


私は目を伏せて首を横に振る。




『まだ、決めていないです』



「何でもいいんだよ?遠慮はいらない」



『お気遣い感謝します。けれど本当に思い浮かぶものがなくて……』




そう云うと森は少し困ったように笑う。




「……そうかい、なら仕方ないね」




貪欲だと思われたのだろうか?


しかし本当に欲しいものなんて何一つないのだ。


こうやって十分に生活が出来ているだけでも有難い。




「盛大な(パーティ)にしましょう!」



「そうだねぇ、うんと盛り上げよう」



『あはは……そこまでしなくても』




遠慮気味に云うとエリスは頬を膨らませながらも口を尖らせた。




「何云ってるの!ちゃんとお祝いしなきゃ駄目よ!」



「そうだよ、A君。一年に一度の特別な日なのだからね」




────嗚呼、そうか。



私が……否、この子が生まれた特別な日。


本当はこの子が祝われる筈だった日。




『……では、盛大にお願いします』



「任せておいて!」



「勿論だとも」




ならば尚更、私ではなく、この子が祝われなければならない。


怖がっていては駄目だ。


きっとその日は“私”じゃなくて本物の“舞姫”が祝われるだろう。




────その為にも




『森さん』



「何かね?」



『誕生日贈品(プレゼント)、決まりました』



「おや、急にかい?」



『はい、その……贈品(プレゼント)と云うより、お願いに近いんですが』




森はキョトンとしながらも柔らかい笑みを浮かべて先を促した。


私は小さく深呼吸をして気持ちを落ち着かせる。



『私の名前を呼んで……抱き締めてほしいです』




きっとその抱擁を受けるのは本物の舞姫だ。

だからこそ、私はそれを贈品(プレゼント)にする。


森は嬉しそうに頷いた。


穏やかな日差しが私達を照らした。


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作者名:らしろ | 作成日時:2020年8月10日 1時

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