第六十一話「ちょっと嬉しい」 ページ12
「今日はこの部屋から出るの禁止。いいね?絶対にだよ、判った?」
『……はい』
太宰に手を引かれて来たのは本が沢山並ぶ部屋。
てか今日って……期限長過ぎやしませんかね?
まだ午前中なんだけど?
え?ずっと此処?
『僕は何を……』
「本でも読んでおいて」
『え〜』
渋々、目の前にあった本を手に取り開く。
太宰はピッタリと私の隣にくっ付いている。
『……兄さん、読みづらい』
「我儘云わない」
否、我儘じゃねぇだろ今の。
どっちかと云うと太宰の方が我儘なんだけど……
「ねぇ、A」
『何?』
「君は元はどんな子だったの?」
ふと思い出したように太宰は尋ねた。
どんな子だと聞かれても直ぐには答えられなかった。
『……普通の学生?』
「普通って?」
『勉強して友達と遊んでバイトして……ごく普通だよ』
本の続きを読みたいが、太宰の問いに答えていると読む気が無くなっていく。
「そんな普通のAは何で僕のこと知っていたの?」
私はページを捲っていた手を止める。
「森さんが最初に尋ねた時、君は僕と森さんの名前を直ぐに云えたよね」
『……そう、だね』
「如何して?」
俯く私を覗き込んで笑みを浮かべる太宰。
……ていうか、今ここで云うこと?
冷や汗が止まらない。
『……簡単だよ、私は君達を知っていたんだもん』
「何故」
『……内緒』
そう云うと太宰は目を丸くした。
きっと答えてくれると思っていたのだろう。
しかし、この世界が漫画だという真実を伝えたところで彼は信じないだろう。
『別に深い意味は無いよ。けど……私は貴方達に逢えてちょっと嬉しい』
そう云ってちらりと太宰を見る。
彼は微笑んで私の肩に自分の頭を乗せた。
「君がそう云うのならそれでいい」
太宰はそう呟いた。
あまり追求されなくて済んで良かったと私はほっと胸を撫で下ろす。
静かな時間が流れた。
すると太宰がもそりと動く。
「そういえば森さんから聞いたけど来月は君の十五の誕生日らしいね」
『え?そうなの?』
本の文字から太宰の顔へと視線を移す。
元の私は本当ならば今年で十九だった。
ふむ、四つも年齢が違ったか。
「何か欲しいものはない?」
『うーん、もうたくさん貰っちゃってるからなぁ』
そう云って本読みを再開する。
暫く私と太宰は時間を忘れて穏やかな午後を過ごした。
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作者名:らしろ | 作成日時:2020年8月10日 1時