第三十六話「不利なお願い」 ページ36
太宰は怒りの籠った目で此方に歩み寄る｡
｢“居なくなればいい”？君は僕の前から居なくなるの？｣
『あ､否……そういう訳では』
｢居なくなるなんて絶対に許さないから｣
太宰は私の手を握った｡
あの日､森が首領の首を斬った時､
彼が握ってくれた手は冷たかったのに今は温かい｡
『……違います､そういう意味ではないんです』
｢……如何いう意味？｣
『異能特務課に私が死んだという嘘の情報を流せば追ってくることがないと思ったんです』
そう云うと太宰は安心したように息を吐いた｡
太宰が私の心配をしてくれた事に驚く｡
｢……なら､森さんの助けが必要だね｣
『そういう事になりますね』
｢なら行くよ｣
太宰は私の手を引いて歩く｡
なんだかんだ云って彼も優しい一面があるのだなと思った｡
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『……と､いうことです！首領､私を死んだことにしてください！』
｢……そう云われてもねぇ｣
首領の執務室｡
私と太宰はソファに座って森を説得する｡
……しかし死んだことにすれば､マフィアは私の異能が遣いづらくなる｡
しかも私の存在を隠し続けなければならないので非常に不利なお願い｡
｢……私も君には此処にいて欲しいと思っている｡
しかし､あの政府の目を欺くとなると相当手の込んだ事をやらないと……｣
｢じゃあ僕も協力するよ｣
その言葉に森も私も目を丸くする｡
こういう話になると太宰は決まって面倒臭そうな顔をするのに何故か今回は積極的だ｡
｢要は政府に彼女は死んだと思わせればいい｣
『でも私はそう易々と死なないんだよ？如何やってそれを……』
｢……簡単だよ｣
太宰は私の頸を優しく掴んだ｡
｢……その政府の目の前で僕が直接､この子を殺せばいい｣
成る程､そうすれば太宰の異能無効化で私の異能は発動せずに死ねる｡
しかし……
｢……それじゃあ本当に舞姫君が死んでしまう｣
森は眉間に皺を寄せながら云った｡
息絶えて三分以内に太宰が手を離さないと私は本当に死んでしまう｡
けれど三分以内に手を離してしまったらアウトなのだ｡
なぜなら政府は私の異能を知っているから｡
｢ちょっとした小道具を遣うんだよ｣
『小道具？』
｢じゃーん｣
取り出したのは義手｡
それも近くでじっと見ないと偽物だと判らないものだった｡
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作者名：らしろ | 作成日時：2020年7月20日 0時
