漆黒の狗は原作を知らない為困っているそうです3【文スト】【芥川成り代わり】

第九十四話『何方ガ好ミ』 ページ14

ある日の仕事帰り
自宅に帰るというのは久し振りだ
しかも銀と一緒に


この前(第八十八話)､一緒に帰れる日を聞くと今日だという事が判った


という事で待ち合わせの場所に行くが




『……拙い､遅刻だ』




ヒールを鳴らし､紺色のオシャレなワンピースを着て
髪を少し巻いて､黒縁眼鏡を掛け
白い外套を手に持ち､真っ暗な夜の横浜を走る


本当は本部から一緒に帰ればいいのだが
銀の仕事が早く終わり家に帰るということで､待ち合わせは外にしようと云ったのだ




『五分オーバー……ゴホッ』




腕時計を確認して数米(ﾒｰﾄﾙ)先にいる女に手をあげる




『済まない､待ったか』




銀はふふっと笑って首を横に振る




『久し振りだな｡よし､少し遅い時間だが食事に行くか』




お高めのディナーを頂く為､目的地まで歩き出す



……其の姿を樋口に見られるとは知らずに───







銀｢姉さん､何か最近いい事があったの？｣



『如何してそう思う？』




個室の高級レストラン
美味しいお肉をパクリと口に入れて首を傾げる




銀｢だって楽しそうだもの｣



『……そうか？』




自分はそうは思っていない
組合編が終わって未来が判らないんだ……だが




『でもそうだな……有意義な毎日を過ごしているとは思う』



銀｢……善かった｡三者鼎立になる前の姉さんはピリピリしていたから｣



『そうだったな……』




そりゃあ､処々原作と違うんだもの｡緊張する
第一､私と彼奴の中が原作より頗る仲がいい……大問題だ




『……啀み合うよりはいいのかな』



銀｢人虎の事……？｣



『……ッ､ゲホッゴホッ』



銀｢えっ､大丈夫？｣




水を飲んでいる時に図星を云うのはやめてほしい
思いっきり噎せてしまった




『絶ッッ対に違う』



銀｢誤魔化しても駄目｡姉さんがピリピリするのは仕事か､太宰さんか､人虎の事だもの｣



『太宰さんは断じて違う｡だが､仕事かもしれないだろう？』



銀｢“啀み合うよりはいいか”と云っていたから絶対に人虎かと思ったの｣



『……成程』




流石､私の妹だ｡よく判っている
すると銀は興味津々に口を開く




銀｢単刀直入に聞くけど……何方が好み？｣



『……は？』



銀｢太宰さんと人虎｣



『そんな感情はない』



銀｢……詰まらない｣




眉を下げて食べ始める銀

……何方が好み､か




『……判らん』




ある人の顔が浮かんだが今は､胸に閉まっておこうと思ったのだった


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