漆黒の狗は黒の時代でも困っていたそうです5【文スト】【芥川成り代わり】

第百八十六話『目ヲ閉ジタクナイ』 ページ29

『……あっ』




芥川の手が太宰の顔の包帯に触れた瞬間､はらりと解かれる｡




『……すみません､包帯が────』




思わず彼女は目を見開いた｡
太宰の瞳があまりにも綺麗だったから｡
真っ暗で先の見えない漆黒の瞳だとばかり思っていたが
そうでもない｡




太｢……如何したんだい｣



『……あ､その……』




太宰の手が芥川の頬に添えられる




太｢……見惚れてるの？｣




芥川の真上にある太宰の顔が微笑んだ｡
それからゆっくりと距離が縮まる｡




『だっ太宰さん……』



太｢大丈夫､少しだけ目を瞑って｣




何が大丈夫なのか？


目を瞑って如何なるのか？



でも今は────




『……厭……です』




────目を閉じたくない｡




太｢…………ふっ｣




小さく太宰は笑った｡

それ以上､彼が顔を近づけることは無かったが芥川と太宰は
鼻がつくくらいまでの距離で暫く見詰め合っていた｡




太｢私の瞳は君好みかい？｣



『……はい､とても』



太｢他は？顔は？性格は？結婚相手にしたいタイプかい？｣



『……いいえ､全く』




え〜！と不満の声を漏らす太宰に芥川は可笑しくて笑った｡
その顔を見て彼は溜息を吐いて彼女の頸元に顔を埋めた｡




『そんなに不機嫌にならないでください』



太｢……だって君が〜｡あ〜本当､もう､好き｣




普段はそんな顔で笑ったりしないのに……
不意打ちはよくない……と､太宰の独り言は止まらない｡




『却説､そろそろ職場に行きますよ』



太｢厭だ〜！もっとAちゃんとイチャイチャしたい〜｣



『駄々を捏ねないでください｡
イチャイチャなんてしてませんから､退いてください』



太｢今の今までイチャイチャしてたのに急に現実に戻るって
酷い！｣



『……？今のがイチャイチャ……？』



太｢自覚ないところも可愛い｣




じゃあもっとスキンシップを多めに……
と明らかにやばい事を云っている変態の顔を目掛けて枕を
ぶん投げる｡




『行きますよ』



太｢ちぇ〜｣




渋々とベッドから出る太宰の背をじっと見て芥川は首を傾げた｡




『……何故､太宰さんは上の服を着ていないのだ』




太｢……えっ？今更？？｣




ポカンと振り返る彼に頷く｡
太宰は呆れた顔をして部屋から出て行ってしまった｡




『……僕の発言が可笑しかったのか？』




太宰の意図が判らず考えていると､いきなり扉が開いて
可愛いワンピースを持った彼が這入って来た｡


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