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そう思っていたのに…
妊娠8ヶ月目。
あの人が、私の前に突然現れた。
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大貴「A…?」
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定期健診のあと、病院から出ると
そこに大貴がいた。
大貴の視線は私のお腹に注がれていて
私は咄嗟に背を向ける。
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「だいき…?」
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彼の顔を見た瞬間、泣きたくなった。
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何でここにいるのとか。
今さら何の用だとか。
聞きたいこと、言いたいことはいっぱいあるのに
気持ち悪いのが押し寄せてきて、思わず口を噤む。
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「…っ。」
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妊娠初期もそうだったけど、
最近は後期つわりが続いて気持ち悪い。
内蔵全部押し上げられてるから当たり前だけど
いつまで経っても慣れない。
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大貴「A、そのお腹…」
「…何でもないです。」
大貴「待ってA。それってまさか…」
「先輩には関係ないです…大丈夫ですから。」
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気持ち悪さと体の重さで、うまく話せない。
ふぅ、と息をはいて、軽く目を瞑る。
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定期検診のときは、先輩たちが
送迎してくれることになっている。
今日は、伊野尾先輩。
.
先輩が来るまで、私が何とかしないといけない。
あの時、この子に誓ったんだ。
ちゃんとしなくちゃいけない。
しっかりしないといけないんだ…
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「…この子は、先輩の子じゃないです。」
大貴「A…」
「もちろん涼介の子でもありません…私の子です。」
大貴「…っ。」
「それに、もう私のこと“A”と呼ばないでください。
“あのとき”が最後のはずです。」
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あの日、あの瞬間を思い出すと
胸がヒリヒリする。
クリスマスイブに大貴が訪ねてきた日。
私と大貴が、初めて“泣いた日”。
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大貴「ごめ…」
「謝る必要はないです。全部自分で決めたことだから。」
大貴「でも…!」
「先輩が責任を感じる必要はありません…無関係だもの。」
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ちょうどそのとき、プップーと
クラクションが聞こえてきて。
振り返ると、少し怖い顔をした伊野尾先輩が
運転席から私と大貴を見ていた。
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愛(プロフ) - おはようございます♪何回見ても泣けるお話です(泣)続編見たいです★楽しみにしてます(•‿•) (6月17日 7時) (レス) @page49 id: 170da3309e (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - ぱんださん» お返事遅くなりすぎて申し訳ございません…!何度も読み返してくださりありがとうございます。作った者としてこれ以上無い褒め言葉です。マイペース更新になりますがよろしくお願いいたします。 (5月27日 22時) (レス) id: 9a2317564f (このIDを非表示/違反報告)
ぱんだ(プロフ) - 私はこの作品のファンとして毎度更新を楽しみにしていました。終盤は涙が止まらなくなることも多く、気づけばこの作品にのめり込み、何度も読み返しています。そして何度読んでも毎度号泣しています。今作も楽しく拝読しています。これからも陰ながら応援しています。 (2023年2月5日 7時) (レス) id: 399b55da19 (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - るん。さん» 嬉しいコメントありがとうございます!楽しんでいただけて嬉しいです。ちょうど今新作公開したので、お時間あればお越しください。 (2022年12月31日 18時) (レス) id: 9a2317564f (このIDを非表示/違反報告)
るん。 - 本当に本当に本当にお疲れ様でした。最初から最後までとても楽しく読ませて頂きました。小説の本を読んでるかのように読みやすく感情移入しやすかったです。1番好きな小説です!また新作できた際には拝見させていただきます! (2022年12月18日 11時) (レス) @page49 id: fde368863d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まりも | 作成日時:2022年10月8日 0時