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「なんで…」
大貴「ごめん。」
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次の日、大貴が家を訪ねてきた。
玄関の扉を開けると、そこで頭を下げていた。
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「…何しに来たんですか?」
大貴「…っ。」
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「じゃあ、何でこの場所を知ってるんですか。
私、学校も辞めて引っ越したのに。」
大貴「人から、聞いた。」
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「人って、誰…?伊野尾先輩たちじゃ…」
大貴「違うよ。
伊野ちゃんたちからは何も聞いてない。」
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大貴が顔を上げた。
目の下にはクマがあって、パンパンに腫れている。
昨日、泣いていた…?
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大貴「これ、受け取って。」
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大貴が大きな袋を差し出した。
中身を見ると、大量の現金が入っていて。
私は封を締めて、大貴に突き返す。
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「いらない…」
大貴「受け取って。」
「お金、いっぱいある。それに大貴には関係ない…」
大貴「うん…関係ない。」
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大貴がはっきりと言った。
けれどその瞳は、よく見なければ分からないほど
悲しい色を浮かべている。
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大貴「これは、俺から“はなちゃん”への出産前祝い。」
「え…」
大貴「あと、これも受け取って。」
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手のひらに乗せられたのは林檎味のキャンディ。
何か大切な事を伝えようとして。
でも、上手く言葉が見つからなくて。
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大貴「つわり、酷いんでしょ。」
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付き合っていたとき、いつも大貴がくれた飴玉…
視線を手の平の上へ向けたままの私に、
大貴は薄く儚い笑みを浮かべた。
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大貴「ごめんね。」
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大貴の手が、私の頭に触れようとする。
だけど、それが乗ることはなくて。
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「…こんな大金、受け取れない。」
大貴「…っ。」
「帰って…」
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大貴の背中が遠くなる。
キャンディの袋を破って、口の中に放り込むと
懐かしい味が広がって、急に泣きそうになった。
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「何やってんだ…」
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ことごとく自分に呆れてしまう。
いつの間にか敬語が崩れて、“大貴”だなんて呼んじゃって。
大貴はもう私のことをちゃんと後輩として見て、
“はな”って呼んだのに…
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「区切りをつけないといけないのは、私じゃんか…」
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愛(プロフ) - おはようございます♪何回見ても泣けるお話です(泣)続編見たいです★楽しみにしてます(•‿•) (6月17日 7時) (レス) @page49 id: 170da3309e (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - ぱんださん» お返事遅くなりすぎて申し訳ございません…!何度も読み返してくださりありがとうございます。作った者としてこれ以上無い褒め言葉です。マイペース更新になりますがよろしくお願いいたします。 (5月27日 22時) (レス) id: 9a2317564f (このIDを非表示/違反報告)
ぱんだ(プロフ) - 私はこの作品のファンとして毎度更新を楽しみにしていました。終盤は涙が止まらなくなることも多く、気づけばこの作品にのめり込み、何度も読み返しています。そして何度読んでも毎度号泣しています。今作も楽しく拝読しています。これからも陰ながら応援しています。 (2023年2月5日 7時) (レス) id: 399b55da19 (このIDを非表示/違反報告)
まりも(プロフ) - るん。さん» 嬉しいコメントありがとうございます!楽しんでいただけて嬉しいです。ちょうど今新作公開したので、お時間あればお越しください。 (2022年12月31日 18時) (レス) id: 9a2317564f (このIDを非表示/違反報告)
るん。 - 本当に本当に本当にお疲れ様でした。最初から最後までとても楽しく読ませて頂きました。小説の本を読んでるかのように読みやすく感情移入しやすかったです。1番好きな小説です!また新作できた際には拝見させていただきます! (2022年12月18日 11時) (レス) @page49 id: fde368863d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:まりも | 作成日時:2022年10月8日 0時