遥かなる我が家−14− ページ27
「中堂さ〜ん」
ミコトは通路でばったり会った中堂を引き止める。
「あの、町田三郎さんのご遺体について見落としがないかみてもらえませんか?」
「銃槍の件は俺でも間違える傷だ」
「……フォローありがとうございます。でも、お願いします」
そう言ってミコトは中堂へファイルを渡す。
中堂はそれを受け取ると言った。
「こっちも見てくれ」
「え?」
「何百回と見たが見落としがあるかもしれない」
所長室へ行き、ソファーへ座ると中堂はファイルを取り出した。ミコトは出されたファイルを開くとそこには鑑定書と書かれている。
「8年前の事件の……」
「そうだ。糀谷夕希子の遺体はスクラップ置き場に捨てられていた。靴は履いてなかった。荷物もない。後の検査で体内に高濃度のニコチンが検出された。致死量以上のニコチンを注射されていた。事故じゃない。誰かが殺意を持って殺した」
「唯一の手掛かりが口の中の金魚」
『そう』
「A……」
『わたしも何百回と見たけど、新しいことは見つけられなかった』
Aは所長室へ入ると、ソファーの向かいの神倉のデスクへ腰掛けた。
「当時捜査線上に上がったのは夕希子と一緒に住んでいた俺と、夕希子が働いていた定食屋の周辺人物。あと、文詠館の関係者」
「文詠館って……“茶色い小鳥”の出版社」
中堂は思い出す。
《1冊目が出せました〜》そう言って微笑んだ彼女を。
「あれが最初で最後の絵本になった。2冊目は“ピンクのカバ”だと言ってた」
「“ピンクのカバ”?」
『かわいいよね』
「……どんなカバですか?」
「知るか」
ミコトの質問に中堂は相変わらず素っ気ない。
「会いたいって思いが死者に会わせるなら……俺は想いが足りてないんだな」
その中堂の呟きにAは俯いた。
ミコトはポツリと呟くように聞く。
「……会いたいですか?」
「ああ……会って聞く。お前を殺したクソ野郎は誰なんだ?」
Aはそれを黙って聞いていた。
「体を切って開いても……分からなかった」
「会えたら聞きましょう。“ピンクのカバ”の話」
「クソが!そんなもん聞いてどうする」
ミコトの言葉に中堂は悪態を吐くと、Aは小さく笑う。それに二人もつられて笑い始めた。
『ふふっ』
「フフフ」
「ハハハ」
三人の笑い声が所長室に響いた。
.
1233人がお気に入り
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
鞠香(プロフ) - ともみさん» 嬉しいお言葉ありがとうございます!頑張ります! (2018年3月19日 19時) (レス) id: 3fdde94521 (このIDを非表示/違反報告)
ともみ - おもしろい!更新楽しみにしてます! (2018年3月19日 2時) (レス) id: f743b881db (このIDを非表示/違反報告)
鞠香(プロフ) - 青龍 葵さん» こんにちは。ドラマの疾走感凄かったですね!完結はもう少し先になりますが、それまでお付き合い頂けると嬉しいです!優しいお言葉ありがとうございました。頑張ります! (2018年3月17日 18時) (レス) id: 3fdde94521 (このIDを非表示/違反報告)
青龍 葵(プロフ) - あっという間にドラマ終わっちゃいましたが、どのような最後(完結)になるんだろう?中堂さんとの関係は?とか思いながら、まだまだ完結は先かと思いますが無理のない程度で頑張って下さい!更新、楽しみにしてますw (2018年3月17日 4時) (レス) id: 7069733e86 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:鞠香 | 作成日時:2018年3月11日 14時