檸檬の香りに沈む３【アンナチュラル 】

敵の姿−10− ページ40

「刑事局長からはしばらく様子を見させてくれと言われました……力不足で申し訳ない」

『ごめんなさい』


所長室でソファーに座るミコトと中堂に神倉とAは頭を下げた。

黙る２人に神倉は続けた。


「それからもう一つ。楽しい話ではないんですが」


そう言って週刊誌の記事のコピーを机に並べていく。


「週間ジャーナルの過去の記事にいくつか気になる箇所を見つけました。ところどころが妙に詳しい記述がある。外部の人間が知り得ないような」

「中の人間が情報を漏らしたって事ですか？」


ミコトの言葉に神倉は頷く。


「お二人は無関係だと思いますけど、何か気付いた事があったら教えてください。情報が漏れて警察庁の信用を損なえば補助金はおろか、刑事事件の調査に関わる事が出来なくなる恐れもあります。この事は、内密に」


そう言ってコピーを回収する。

−コンコンコン

ノックが聞こえ、神倉は返事をする。


「はい、どうぞ」

「橘芹菜さんの細菌検査の結果が出ました！ボツリヌス菌です！」


久部は所長室のドアを開けると勢いよく言った。

警察の毛利と向島を加えて、会議室で久部は説明する。


「ボツリヌス菌は食中毒を起こす菌の中でも最強で、その辺の土の中にもいて、食品にも頻繁に混入します。酸素のない場所で繁殖する為、自家製の瓶詰や真空パックの食品で発生しやすく国内でも度々問題になってるそうです」


補足するように夕子は言う。


「家庭でも発生する毒であると同時に生物兵器としても使えるほどの猛毒で１gで１万人以上を殺せる」

「ボツリヌス神経毒素は全身の神経を麻痺させて脳神経障害や呼吸機能障害を引き起こします」


ミコトの説明に毛利は聞く。


「じゃあ、その毒を注射か何かで？」

『胃の内容物が腐っていた事を考えると、ボツリヌス菌を繁殖させた食べ物を直接食べさせた可能性が高いです』

「まだ、病理検査が残っていますがボツリヌス菌が出た以上、ボツリヌス神経毒素による中毒死と考えてほぼ間違いないと思います」


ミコトの診断に毛利は頭をかく。


「死因が分かっても犯人がなぁ」

「捜査状況についてはどうなってるんでしょう？」


神倉の質問に向島が答える。


「現場から複数指紋が出たんですが、元々飲食店ですからこれといった容疑者はしぼれてません」




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