その116【過去編・松田】 ページ22
萩原さんが亡くなってからちょうど1年が経った。
訃報を聞いた時は、何か悪い冗談なのではないかと信じられずにいたが、お葬式での脱け殻のような松田さんを見て萩原さんの死を実感した。
ボーッとしながら授業を聞いていると松田さんからメールが届いた。ヒロを含めた仲良し5人組の中で私と一番関わりの薄かった松田さんがメールしてくるなんて珍しい。
「今日の午後空いてるか?時間があったら俺に付き合え。」
という内容だった。松田さんが何をしたいのかくらいわかっている。萩原さんのお墓参りだ。
幸い午後から授業はないし、元々私もお墓参りに行く予定だった。松田さんにそう伝えると秒で返事が返ってきた。
学校まで車で迎えに来てくれるらしく、場所と時間を教えろとのこと。
学校バレしちゃうと思いつつも、いつもより優しい松田さんが珍しくて場所と授業終了時間をメールで送った。
授業が終わり校門を出ると、停めた車にもたれて煙草を吸っている松田さんを発見した。その姿がとても絵になっていて、周りの女子大生たちが騒いでいる。
『松田さん、この辺り路上禁煙地区なんですけど。』
松「いいだろ今日ぐらい。道に捨ててねぇんだし。」
『…今日だけですよ。』
松田さんが運転席に乗り込んだので、私も助手席に乗った。松田さんの車に乗るのは初めてで、思った通り煙草の匂いが充満していた。
松「Aって、東都大だったんだな。」
『意外ですよね。私もまさか合格するとは思ってませんでした。』
松「謙遜すんなよ。どうせ大学でも首席なんだろ?」
『今はそうですけど、入学した時は本当に底辺でしたよ。周りがハイレベルすぎて何言ってるのかわからないし友達とも話が合わないし、入る大学間違えたんじゃないかって思いましたよ。』
松「よくそこから首席に上り詰めたな。」
『上位の成績で卒業したら返済なしの奨学金が貰えるんです。それで家族に恩返ししようと思って必死で勉強しましたから。』
松「お前、すげぇな。」
『それと…萩原さんと交わした約束がありますからね。』
松「萩原と?」
『そうです。無事に卒業できたらどこの大学行ってるか教えるって萩原さんと指きりしたんです。ちょうど2年前の11月7日に…』
松「あいつが死ぬ1年前か…」
『どうせなら上位で卒業して驚かそうと思って勉強頑張ったんですけど、結局約束を果たす前に萩原さんは…』
思い出すだけで胸が苦しくなる。なんでこんなに早く死んじゃったの?それも突然に…
169人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:おひたし | 作成日時:2019年5月28日 18時