いくつもの夜を (ページ29)

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第29夜ページ29

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「っ、遅れてごめん！」

仕事の都合で待ち合わせ時間に遅れたおれに対して山田は、大丈夫だよと首を振った。

「勝手にビール頼んじゃったけど、いい？」

「ん、ありがとー。さすが山田は気が利くね～」

「全然、そんなことないよ」

帽子と伊達眼鏡をとった開けた視界でしっかりと山田を見つめる……なんか、変じゃない？

上手く言えないけど、落ち込んでるっていうか……気のせいかな？

「山田、なんか落ち込んでる？」

「……ん？そんなことないよ」

いちおう否定の言葉を並べている山田だけれど、その瞳にはやっぱりいつものような輝きはない。

さらに質問を重ねようか迷っていた矢先に、店員さんがビールを運んできた。

『では、ごゆっくり』

店員さんがいなくなったドアをしばらくぼーっと眺めていると、山田がおれの名前を呼んだ。

「伊野尾ちゃんも、もうわかってると思うけど」

「ん」

「今日話したいのは、俺たちの関係を終わりにしようって話。俺が勝手に決めちゃうのもどうかと思ったけど、いいかな？」

この言葉にうなずけば、おれ達の関係はなかったことになるのかな。

なんだか話を長引かせたくて、おれはすねたような声を出す。

「……彼女でも、できた？」

こんな言葉を放って思い出す。
そう言えば、山田には彼女がいるって大ちゃんが言ってたような。

あれ？でも山田は知念と付き合うんだから、あれはガセってこと？また大ちゃんのドジ？

大ちゃんばかじゃねーの、なんて思って思わず笑いそうになる。

「……知念と、付き合うことになって」

「……そっかぁ」

一応知っていたことだからあんまり驚きはしない。

おれのテキトーな返事で気まずい沈黙が充満し始める。

瞬間、山田が立ち上がった。

「へぁ、やまだ？」

「……やっぱりここじゃ、話せない。店出よ」

「え？でもまだ来たばっか……」

「お願い、来て」

どうしても、って顔で山田がおれを見るから、差し出されたその手を握る。

ぱぱっと会計を済ませた山田とおれが向かったのは、夜の公園だった。

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