いくつもの夜を (ページ26)

今日:5 hit、昨日:21 hit、合計:396,728 hit

第26夜ページ26

・

雑誌の撮影の最中、不意に山田が近づいてきた。

できるだけ避けていたつもりだったけど、あまりに自然に近寄ってきたから逃げられなかった。

「伊野尾ちゃん、なんか今日機嫌悪くない？」

「……悪くないよ、大丈夫」

もし機嫌が悪かったとしたら間違いなく山田のせいだけど、という言葉はなかったことにして。

「ふーん。それならいいけど……今日の夜、空いてる？」

「うん」

「じゃあ、一緒にご飯行かない？」

少し緊張が混じる山田の声音に、知念のことを話したいのだろうと検討がついた。

「え、いや、えーと……」

「なんかやだの？」

「っそ、そんなことないよ！」

あぁもう。用事があるって嘘でも言っとけば良かった。

「じゃあ行こうよ？」

あざとく首をかしげ、こちらを見つめる瞳と目が合う。

しょうがない。
いつかは受け入れなきゃいけないんだから。

そんなことを考えて、なんとなく泣きたいような気分で口を開いた。

いや、開こうとした。

「伊野ちゃん、行かなくていいよ」

おれの目の前に立って、堂々と山田にその真っ直ぐな視線を返したのは大ちゃんだった。

「大ちゃん、なに言ってんの？」

「そうだよ、どうしたの？」

困惑した山田の声。

おれもなんとか普通に声を出すと、大ちゃんはおれの手を握って口を開いた。

「こんな、伊野ちゃんの気持ちをぜんっぜん分かってない人といる必要なんてないよ、ね？」

そのまっすぐな瞳を今度はおれに向けた大ちゃんに、じゃあ大ちゃんはおれの気持ちを知ってるの？なんて野暮なことは聞けなくて、とりあえずうなずく。

「有岡さーん、伊野尾さーん、撮影始まりまーす！」

「はーいっ！」

スタッフさんの声に大声で返した大ちゃんは、行こっか？とおれに言って歩き出す。

山田は戸惑ったような視線をこちらに投げ掛けてきたけど、それを無視して歩く。

そのことに申し訳なさを覚えながら、おれは首をかしげる。

なんで大ちゃんは助けてくれたんだろう？

・