お古の小袖の段（利吉視点） ページ46
「〜〜〜ハァ」
風呂敷の重みが肩にのしかかる。
これしきの荷物などワケないのだが、荷物の中身を考えると堪らなく腹が立つのだ。
この荷物の届け先の人物の前に嫌味のように音を立てて風呂敷を置く。
「父上ェ！今回の洗濯物は何故こんなに多いのです！？」
「悪いな利吉。洗濯物だけではなく小袖を持たせてもらったんだ。ほれ、懐かしかろう？」
「…これ、私が昔女装で使っていた？」
「左様。小さくてもう着られんものだ」
「……、伝子さんにも小さいのでは？」
伝子の名を出せば、早着替えにより父上の女装が瞬きの間に完成する。
「ああらぁ、ワタシ用じゃないわよん。半助、あの子を呼んできて頂戴」
「分かりました。私はついでに火薬委員会に顔を出して来ます」
という事はこの小袖は誰かにやるのだろう。きり丸のように家がない子や貧しい子だろうか？
「伝子さん、Aにございます」
「ん、お入んなさぁい」
綺麗な所作で開けられた戸から見えたのは、忍たま四年生の忍装束を着た、男にしては随分可愛らしく、顔が整った子…。滝夜叉丸は凛々しいが、目の前の子は華奢で儚いような、それでいて可憐。
所作もまるで女の子のようで、柔らかく美しい。この子の事は一度見たら忘れないから、きっと転入生か。女装が映えるだろうな…
って私は男の子相手に何をつらつらと思って…！
伝子さんが何もおっしゃらないので、私と伝子さんの顔を交互に見て何か喋ろうかと唇を少し開けたり閉じたりして迷っている。
「…お初にお目にかかります、Aと申します。」
三つ指をついて頭を下げる目の前の子。これはいよいよ女の子なのでは！？
「ご丁寧にどうもありがとう、利吉です。」
私も正座をして手を膝に置き、頭を軽く下げた。伝子さんといえばニッコリ笑ってまだ何も発しない。
「…伝子さん、お客様がお見えになっているなら出直します」
「ううん良いの、二人の様子をしばらく観察させてもらっただけだからん」
「…こちらの方は？」
「ウフフ、誰だと思う？」
小袖の件で呼んだのだろうに、何やら女性特有の面倒な絡みを発動する伝子さん…。
「伝子さんの…恋人…？」
「違います違います！」
思わず私が否定してしまった。
「これは山田利吉。山田伝蔵の一人息子よん。こう見えて売れっ子のフリー忍者よ」
「山田先生の…！あの、お父上にはいつもお世話になっております」
「いえいえ、こちらこそ」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年7月31日 17時
