其の漆 ページ36
「一緒にとは言っていないよ。四半刻(※30分)でも半刻(※1時間)でもいいから遅くない時間帯でAさん専用の時間を設けるんだ。そうすればAさんも気兼ねなく入れるでしょ?」
「わあ!雷蔵君?の提案すごくいいね!実は昨日も今日も人を待たせててお風呂入った気がしなかったんだ」
「いやぁそれほどでも…」
三郎と同じ顔をしている彼は雷蔵と言うらしい。三郎よりも柔らかい印象だがそっくりだ。双子だろうか?
「きっと野村先生に言えば進言してもらえますよ」
「ありがとう、折を見て言ってみるよ。
ところで、歳は二つしか変わらないし、呼び捨てで敬語も外して話してくれると嬉しいんだけどどうかな?」
皆が顔を見合わせて、頷いてくれた。
「さて。蟠りも解けたことだし俺達も風呂へ入るか!」
「私が部屋まで送っていく」
三郎が言う。
「…うん、お願いね」
二人で肩を並べて歩く。
送ってもらう間、特に会話もなく部屋に到着した。
「送ってくれてありがとう。お休み」
「…あー、待ってくれ。その…大丈夫か、脚」
「え、うん。痛いけど大丈夫だよ」
「そうだよな、痛いよな。勘右衛門がAの身体には古傷なんて一つも無かったって言ってたから、初めての大きな怪我なんだろうしな…」
「へ!?勘右衛門君が何で私に古傷がない事知ってるの!?」
「昨日穴から出てくる時に見たって言ってたけど」
「…あー、あの時に居たのか。まあ確かにこんな怪我は生まれて初めてかな?」
「悪かった」
「どうして三郎が謝るの?あれは曲者の腕が緩まった時に無闇に動いたからだし、その攻撃がなければ一拍早く逃げられてた。そしたら今頃私は曲者に連れ去られてたよ。でしょ?」
「…そうだな。お前が連れ去られなくてよかった」
三郎はやっと少し笑ってくれた。
「うん」
「じゃあな、お疲れ」
「お疲れ様」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時