其の肆 ページ33
八左ヱ門と呼ばれた人に、所謂お姫様抱っこをされて走って運ばれている。
「…あの」
「何ですか!?傷に響きますか!?」
「いえ、重いのにすみません。もう歩けると思います」
「全然重くないですよ!…だけど、そうですね…」
八左ヱ門君は視線を逸らして言いにくそうにする。
「…首に手を回して貰えると、もっと安定して走りやすくなります」
降りるという選択肢は彼の優しさによって無くされた。
言われた通りにすると、八左ヱ門君との距離がぐんと近くなった。彼のモサモサした髪が顔に当たって擽ったい。
さっき曲者に同じ抱え方をされて怖かったのに、今は驚くほど安心する。
「新野先生はいますか!?」
戸を開けると、しんべヱ君と同じ模様の忍装束の子が佇まいを正して座り直した。
「新野先生と伊作先輩は学園におられません!」
「六年生の実習について行っているのか…」
「乱太郎はくのたまの怪我の処置はした事ある?」
「いえ、ありませんけど…?」
五年生はうーんと唸った。
私の怪我した場所は左の太腿の外側。この時代に太腿を晒すのはきっと破廉恥で、後輩君にその配慮をしたいのだろう。
「私、自分でやります」
「出来るんですか?」
「たぶん」
「…分かりました。これ、酒と綿と箸と包帯、鋏です」
皆に背を向けて処置を開始した。
箸は、酒に浸した綿を摘むためのものかな?
消毒して…
「いったぁ……」
我慢していても思わず声が出てしまうくらい滲みる!というか八左ヱ門君に抱えられてほっとしたくらいから結構痛かった。
この時代にまだ縫合って無いよね。(ノー麻酔で縫合するって言われても拒否するけど)
とりあえず傷が開かないようにきつく巻いておいた方がいいかな?
包帯巻くのって初めてだけど、何とか形になったと思う。きつくて動きにくいけど、まあいいでしょう。
「よし、できた!」
寝巻の裾を整えて、皆に向き直った。
巻いたところがきつくて正座しづらいけれど何とか座って、頭を下げる。
「助けて頂いて本当にありがとうございました」
そう言えば皆はバツが悪そうな、あまりいい顔をしない。
「助けたって言うか…」
そこで私は曲者の言葉を思い出す。
三郎が私に殺気を向けていたとかなんとかって。
「…ああ、そっか。そういう事かぁ」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時