其の弍(喜八郎視点) ページ3
「伊作か?」
食満先輩は穴の中を覗き見て、一瞬言葉に詰まる。
「…いや、誰?」
「私にもさっぱり!」
「僕にも分かりません〜」
食満先輩の視線が問答に加わらなかった滝夜叉丸に注がれる。
「いや私も知りませんよ!でも食満先輩が来て下さったので安心して先生方を呼びに行けます!
何だか七松先輩と喜八郎を残して現場を離れるのが心配だったものですから!」
「お前、なかなか失敬な奴だなぁ!」
「生き埋めにしようとした奴と、いきなり起こそうとした人ですからね!」
「あんなの冗談なのに、滝ったら頭が固いねぇ」
「冗談なら真顔で言うなよっ!!
とにかく、七松先輩も勝手な事はしないで下さいよ!?」
滝夜叉丸は急いで職員室の方角へ駆けていった。
滝が先生を連れて来る頃には穴の周りにちょっとした人集りができていた。
「君達、ちょっとどきなさい」
「山田先生!安藤先生!」
お二人は立ったまま穴の底を覗く。
「…気を失っているようですね」
「そのようで」
「慎重に引き上げて拘束するか、穴の中で尋問するか…」
「引き上げ時に気が付かれると厄介ですから、このまま起こしましょう」
山田先生と安藤先生が七松先輩に目配せする。即座にやるべき事を理解した先輩がこくりと頷くと、スゥーと息を思い切り吸う。
「おーーーーい!!!」
およそ人間が出したとは思えぬほどの声量に、さすがに穴の底の人間も目を覚ました。
「…はっ。……はい!」
拍子抜けしそうなくらい、素直な返事が返ってくる。
「大丈夫かー!?」
「はい、大丈夫です!」
「君、どうしてそんな所にいる?」
安藤先生が訊ねる。
「どうしてって、……ん?」
その人は視線をあちこちに泳がせて思案し始める。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年7月31日 17時