其の参(雑渡視点) ページ10
弦月の淡い光が村に降り注ぐ。
「ほんと、見てらんないよ」
Aちゃんが場に流されて同衾を承諾した。案の定、清八君が盛ってしまって、このままでは最後まで致すのではないかと思い、妨害で鳥の子を窓から投げ入れてやった。
『奴はこんな事したのかー』って私、口吸いはしてないし。しかもあんな相手が気絶しそうなやつ。ずるい。私だって激しい口吸いの後で、でろでろに甘やかしたい。
咳き込みながら戸口に出て来た二人。清八君は反省しているようだが、次また襲ったら今度は焙烙火矢でも投げ込んでやる。
「…ッ」
肩に刺すような痛みを感じ、上衣をずらして肩を露出させる。巻かれた包帯に血が滲んでいる。
この傷はオーマガトキとの戦で先日受けた矢傷。毒が塗り込められていたようで治りが遅い。たまたま戦場で薬師が敵味方関係なく手当てを施していて、私も包帯を分けてと言ったら無償で傷の具合を診てくれた。若いのに適切な処置だった。それが無ければ今頃はまだ床に臥せっていたかもしれない。
本当は今日も寝ていろと小頭や尊奈門達から言われていたが、こっそり抜け出してAちゃんに会いに来た。
「煙幕を張った割に、今すぐ私を連れ去る気はないようです。彼は存外悪い人間ではないのかもしれません」
Aちゃんは本当、他人に甘いんだから。肩の傷さえなければ、村を去りたいと言った時点で迷いなく連れ去っていたよ。
「ったく、仕事一筋だった私が女の尻を追いかけてるなんて、随分焼きが回ってきたな」
帰ろう。
尊奈門、怒ってるだろうなぁ。いっつも小言が煩いから、しばらく遠くの視察にでも遣ろうかな。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時