其の陸 ページ49
「誰が老け顔だゴルァ!!鉄双節棍出しやがれ!!」
「誰がどう見たって老け顔だろうがよォ!!勝負だァァ!!」
文次郎君が私を小脇に抱えて、袋槍を出した。鉄双節棍で殴打される未来が見えたんですけど…!!
「潮江先輩!食満先輩!お二人とも喧嘩するんでしたら私が身柄預かりますからねっ!!」
小脇に抱えられた私を解放しようと三木が剥がしにかかる。
「ったく。お前達は新学期前から喧し過ぎるよ」
突然、身体がぐんっと強い力で何かに引き寄せられた。
「Aちゃんの至近距離で喧嘩なんて始めて。怪我させたら分かってるだろうね?」
伊作君がその顔に似合わずドスの効いた声で二人を牽制した。夏の真っ昼間だというのに、伊作君の顔には影が落ちていた。
「いや俺達、どっちがAを慰めるかって話で…」
「嘘つけ、老け顔かどうかの言い争いの間違いだろう?」
「「スミマセン」」
「ほら、Aちゃん泣いてるじゃないか!どこが痛い?ここかい?」
「いや、涙が出たのは別件だし嬉し涙。どこも怪我してないよ」
「ああ、良かった!せっかく夏休み中にお祓い行って来たのに戻って来て早々にAちゃんが怪我なんて、不運にも程があるからね」
「その場合不運なのはAだけどな」
「考えてみりゃ、Aも相当不運体質だもんな」
「ちょっと、そんなに人のこと不運不運って言わないでよ〜…」
「じゃあ不運の伊作と不運のAが一緒にいたらどうなるんだ…!?」
その時、空がふっと暗くなって遠雷が聞こえた。おまけに風向きも変わって風も冷んやりしている。
「来た!!!不運だ!!!」
「さっきまであんなに晴れてたのに!?」
「こりゃ荒れるぞ!雨だけで済みゃあいいが竜巻や
「わ〜布団取り込まないと!!」
「ユリコ!早く部屋へ急ごう!」
とうとう雹が降ってきて、私達の頭をコツコツと叩いた。私達は蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの部屋へと急いだ。
そこで私はふと兵庫水軍に滞在中に起きた出来事について思い出した。死にかけたのにすっかり治ったことを、伊作君にも一応話しておきたいと思っていたのだ。
すぐ前を走る伊作君の手を掴んだ。
「伊作君!!私話したいことがあるんだけど!!」
「えっ!?うん分かったよ!!じゃあ部屋で待ってるから!!」
「ありがとう、すぐ行くね!」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時