其の参 ページ46
仙蔵は行李を部屋の隅に置くと、手際良く私の部屋の布団を干してくれた。
「何から何までありがとう!」
「気にするな。女子一人で布団干しは重労働だからな。
ところで、この行李の中身は何だ?」
「ほぼ小袖だよ。団蔵君のお母上がたくさん下さったの」
そう言えば全部きちんと見てなかったなと思い、小袖を一枚ずつ床へ並べてみる。
「へえ、衣装持ちになったな。この
それは灰みがかった青色の小袖だ。仙蔵のものと色がとても似ていると思い、それを仙蔵の肩に掛ける。
「一緒!」
色が完全に一致した。そりゃあ気に入る訳だね。
仙蔵は小袖を私の肩に掛け直すと、何故かフッと笑った。
「小袖と言えば、明日町へ行かないか?ほら、前に約束しただろう?利吉さんに仕立ててもらった小袖で一緒に町に行くって」
「それはいいけど、何の用事で?」
「用事が無いと、私の誘いには乗ってくれないのか?」
切なさを孕んだ真顔で訊き返される。さっき余裕たっぷりで私を揶揄っていたのにそんな顔をするなんてずるい…!!
「いやいや!用事があってもただの気晴らしでも付き合うよ!聞いてみただけ」
「そうか。実はまだ用向きは決めていない。これから考えておくよ」
「うん、分かった」
床に広げた小袖を畳み直し、引き出しに入れていると、仙蔵も手伝ってくれた。が、引き出しを開けた瞬間、眉を顰めた。引き出しいっぱいに縄梯子がみっちり詰めてあったからだ。
「なっ……」
「ああそれ、八左ヱ門と一緒に町へお使いに行った時に買い求めた縄梯子だ。ほら、喜八郎に私専用の落とし穴を掘ってもらって落ちてた時期あるでしょ?」
「竹谷とって、それ初めて町に出た時だろう?」
「そうだね」
「初めて買ったものが縄梯子、次に買ったのが自分用ではなく我々への土産の有平糖。まるで年頃女子の買い物とは思えんな」
呆れたように溜息をつく。所持品に女子力がなくて悪かったね!
「だって縄梯子は借りに行きづらかったし、事務のお手伝いで頂いた給金は高すぎて申し訳なくて、せめて忍たま達に還元しておこうかなって」
「正当な対価なんだから気にせず懐へ入れておけばいいものを」
「皆に感謝されて、下級生達に美味しかったって笑顔で言ってもらえたから金額以上のものを得られたと思ってるけど」
「ふうん。そういう感覚は未来人特有なのかもな」
「そうかなぁ」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時