其の肆 ページ4
私を庇うように前に進み出た。雑渡昆奈門は上背があり、墨黒の忍装束と相まって、妙な威圧感に清八さんは気圧されているようだ。
隻眼ゆえか顔は表情がほとんど読み取れず、それが一層不気味さを醸し出している。
「君は彼女と一緒になるつもりはないのだろう?静かに見送ってくれないかい?」
「一緒になるつもりがないと明言したつもりはありませんけど」
「ふうん。その目、私とやろうっていうのかい?」
手首まで巻かれた包帯の隙間から棒手裏剣を取り出す。忍でも何でもない清八さんに防ぐ手立てはない。刺さりどころが悪ければ簡単に死んでしまうだろう。
「やめて下さい…!清八さんじゃ絶対敵いません!死んじゃいます!
お願い雑渡昆奈門!加藤村の人には危害を加えないで!!もうこれ以上不義理したくないんです!!
私、あなたと一緒に行きま────むぐッ!?」
清八さんが雑渡昆奈門から厳しい目線を外さずに、左手で頭部を抱え込むようにして私の口を塞いだ。
厚みのある手の平は緊張による汗で湿っていた。
「言わせません!!!」
「へえ、意外と男気あるじゃないか。評価を改めよう。でも、好きでもない子の為に死ぬなんて馬鹿げてると思うけど」
その通りだ。私を庇うために死ぬなどあってはならない。
しかし、肩と手で挟み込まれた私の頭はびくともしない。
「あなた、Aさんを好いているのでしょう?
私を傷つければ、その後どれだけAさんを愛したとしても、Aさんから愛されることはなくなりますよ…」
「それは実に惜しいけれど、君はもう色々と知り過ぎた…。反抗するなら私の敵。悪いけど消えてもらうよ」
黒光りした棒手裏剣の先端を清八さんに向けるように持ち替えた。
「さらばだ、勇敢な青年」
雑渡昆奈門が棒手裏剣を握る手を振り上げた時、清八さんは僅かに口角を上げた。
「知ってます?馬って尖ったものが大嫌いなんです。馬飼いの常識ですよッ!」
清八さんが蹴りでコレステロールの馬房の枷を外した。大きな音で興奮したコレステロールが雑渡昆奈門と私達の間に飛び出し、敵味方なく襲う。
「くっ!」
雑渡昆奈門は飛び退いて距離を取った。そして、一瞬ではあるが、肩を押さえてふらついたように見えた。
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時