其の参 ページ29
「…なあ。Aはもうすぐ連れ去られてしまうのか?それで落ち込んでるのか?」
「えっ…?」
どうしてそう思い至ったのだろう?雑渡昆奈門に連れて行かれる件は小平太にしか話していない。小平太が八左ヱ門に話したとも思えない。
「そうなんだな?」
「……何それ?ちょっと何言ってるか分かんないや」
「この事を話してしまうと誰かが傷付くのか?」
何でそこまで知っているのか知らないけれど、私が今一番辛いのは、照星さんに四六時中疑いをかけられ続けていることであり、雑渡昆奈門の連れ去りの件じゃない。
「俺じゃない他の誰かが傷付くのなら、俺がその人の事も護るよ。
頼む!ここは一つ、俺を信じてこっそり教えてくれないか?」
そう言うと、私と離れて正座をしたので、私も居住まいを正した。
「あのね…」
「うん、」
「私がここ数日参ってたのはその件じゃないんだ…。
だけど大丈夫、八左ヱ門と話せて元気が出た。私、自分の気持ちに正直に行動しようと思う。その人とちゃんと話してみる…!」
「うん…それは良かったんだけど。なんかまだ心配だなぁ。
その件じゃない方はひとまず答えが出たとして、次は連れ去りの件の方を詳しく教えてくれるか?絶対大丈夫だから!」
八左ヱ門は胸の前で拳を作ってみせた。
「どうして絶対大丈夫って言い切れるの?」
「うーん。前も言ったと思うんだけど、俺はずっとAと一緒に居たいからさ、その為なら大抵の事はやり抜けるって思うんだよな。
……それくらい、俺の中でAの存在は大きくて大切なんだよ…」
八左ヱ門の手が私の頬を滑る。熱い指先が
「八左ヱ門…ありがとう。でも──」
「ちょっと待った!俺今、結構恥ずかしい事言ったんだけど!伝わってる!?」
「伝わってるよ。私も八左ヱ門のこと大切だよ」
そう言ったのに八左ヱ門は困ったように眉を下げて微笑した。
「俺の“大切”は、Aのそれとは少し違う。どう違うかを伝えるのは今じゃないから言わないけど、とにかく俺は生半可な気持ちで言ってないから。Aの身に降りかかってること、教えて欲しい」
八左ヱ門の視線は真っ直ぐで、強い意思を感じた。
「……絶対に死なないって、約束してくれる?」
「ああ。大丈夫だ、絶対死なない!」
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時