関わったら最後までの段(虎若視点) ページ27
おかしい。
佐武村へ来た日は長旅で疲れた様子はあったけど、僕にたくさん笑顔を見せてくれてたのに。
ずっと一緒にいる照星さんに訊いても理由は分からないって言うし、Aさんに訊いても「なんでもないよ」って言うだけで何も話さない…。
そしてさっき父ちゃんが僕と二人になった時に言った。
「笑わないのはいよいよおかしい。きっと気鬱だ」って。
「どうしよう、気鬱だったら…!」
夢中で町まで裸馬で駈けた。馬なら帰りに薬師を乗せて来れるから早く診てもらえる。
薬師の住む長屋まであと僅かというところで、視界の端に見覚えのある小袖が映った。水色に竹の葉模様。笠を被っていて馬上からだと顔は確認できないが、あの背格好、そしてボサボサの髪はあの人に間違いない!
「竹谷先輩ッ!!?」
「…虎若!?」
「どうしたんですかこんな所で!?竹谷先輩のご自宅はもっと遠い所では…!?」
「そうなんだが、夏休みの宿題の関係でな。虎若は随分急いでる様子だな?」
「はい、実は薬師の所へ──…」
「薬師?誰か調子が悪いのか!?」
ここでもう一度父ちゃんの言葉が
笑わせることが出来たら少しでも元気になるんじゃないか?
そして、薬師に診せるより竹谷先輩に見舞ってもらった方がAさんを笑わせられるんじゃないか?
「──あの、一緒に来てくれませんか!?乗ってください!」
「っ待て待て!何で俺なんだ!薬師を連れてけ!」
「薬師じゃなく竹谷先輩を連れて行きます!お願いします先輩っ!助けて下さいっ!!」
「わ、分かった!分かったから落ち着けっ!」
素早く後ろに乗せて、佐武村へと帰路を急いだ。
「虎若、一体どうしたんだ!?薬師の代わりに俺なんか連れてってどうする!?善法寺伊作先輩じゃあるまいし…」
「今、村にAさんがいるんですが…」
「!! Aに何かあったのか!?」
「ここ数日でご飯をあまり食べなくなって、とうとう笑わなくなっちゃって…!」
「何っ!? 心当たりは!?」
「ご本人は理由を話そうとしませんが、一つだけ……。
久々知先輩から団蔵を介して言伝があって、Aさんは曲者に連れ去られる日が予め分かってるんじゃないかって。でも弱みを握られていたりして、忍たまに言えない可能性があるって!」
「兵助がそんな事を…!?」
「加藤村に滞在中にもタソガレドキ忍軍組頭が来て、清八さんが追い払ったらしくて!」
58人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時