狐疑の段(照星視点) ページ22
翌朝早く、清八君とAは厩にいた。
「──それじゃあ、私は帰ります。また十日後にお迎えに来ます」
「何だか近江からわざわざ来てもらうの申し訳ないです。この辺にも馬借してる方はいると思うんですけど」
「まさか…馬借の利用は生涯私にお任せ頂くという約束は反故にしませんよね……!?」
「ああ、そうでしたね。でも近江から紀伊に来て、忍術学園まで送って、また近江に戻るなんて一日じゃ無理ですよね?」
「途中で宿を取りますから大丈夫ですよ。責任を持って私が送ります。私は一刻でも長くAさんと居たいんですから、他の馬借を手配したら怒りますよ」
「ふふ、そこまでおっしゃるなら気にせず清八さんにお願いすることにします」
清八君は柔らかい笑顔を見せてここを立った。
ひとしきり見送ったAはこちらへ向き直ると、私の姿を見つけて歩み寄る。
「照星さん。おはようございます」
「彼は随分早く立つのだな」
「上手くいけば今日の馬借時間便に間に合うからと…」
「仕事熱心だな」
「ええ、本当に…」
やや寂しげに既に閉門された砦を見つめた。
「恋仲なのか」
「えっ!?ち、違います!!」
「ただの馬借と客の雰囲気ではないようだったが?」
「えっと…清八さんとは仲の良いお友達なので…」
「そうか」
こうして見ると、顔立ちなどは確かに今風ではないような気もしなくもないが、だからと言って疑いが晴れる訳もない。
「……照星さん?私の顔に何か?」
「いや。整った顔立ちだと思っただけだ。それより君は今からどうするつもりかね?」
「(整っ…!?)そ、そうですね、何かお手伝いをしたいんですが。そうだ、馬のお世話をしても宜しいですか?加藤村でお手伝いしていたので、大体のことは分かるので。
「手伝い無用。君は朝餉まで部屋で待機していなさい」
「そ、そうですか……分かりました」
僅かに残念そうな顔をして長屋へと戻っていった。
飼料の備蓄量など調べるつもりだったか?
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時