其の参 ページ3
「同じことさ。その男が縁談を拒否しなければ加藤村の村民にこれ以上ない恩返しができたのに、その道を絶ったのは彼だろう？結果、君はこの村に居づらくなった」
「仕方ないでしょう。人には好みというものがありますし、好いた人や恋仲がいたって不思議ではないです。それに私はどのみち縁談を受けられない」
「受けられない、ねえ…。ま、今回は好都合。
話を戻すけれど、今すぐ君を連れ去る、という事で問題ないね？」
「問題しかありません。私はタソガレドキなんかに行く気はありませんから！」
「どうして？君はこの村を出たい。私は君に来て欲しい。めでたく利害が一致したけれど？」
わざと首を傾げて理解できないというような仕草をする。
「タソガレドキに行くくらいなら加藤村に一生居座ってやります！」
雑渡昆奈門は目にも留まらぬ速さで間合いを詰めると、長い指が私の頬を撫でる。
「それは困る。君と
耳元で言う。私が怯んでいる間に指先がツツ、と喉を伝い、鎖骨まで到達する。背中がぞわりと粟だった。
「っ、触らないで！」
「やはり駄目？私はこう見えて一途に愛する男だよ」
「あ、愛…！？訳のわからないこと言わないで！籠絡して情報を引き出すつもりなら、そうはいかないから！」
「未来を知る者から語られる情報はこの世の何にも勝る至宝…。確かに当初は情報目的だった。たとえ大した情報を得られなくとも、珍し物好きな殿へのいい土産になると思っていた。
だが、次第にどうでもよくなった。君を観察するうちに純粋に惹かれてしまってね…。
私の側に置いておきたい。望むものは出来る限り与える」
「お断り申し上げます」
「何が気に入らない？私のこの恐ろしい相貌かい？
少なくともコソコソ隠れてこの場に出て来れない腰抜けの男よりも、私の方がいい男だと思うけれど。
そうだろう？加藤村馬借の清八君」
「え…！？」
名前を呼ばれた清八さんが厳しい表情で厩舎へ入って来て、雑渡昆奈門と対峙した。
「清八さん！？どうしてここに…！」
「盗み聞きなんて真似をしてすみません。Aさんが親方の前で泣き崩れたのを見てしまって、どうしても様子が気になって後をついて来たんです…」
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作者名：玉虫厨子 | 作成日時：2023年10月11日 16時
