廃坑道の下で…の段 ページ12
今回私達を乗せていってくれる馬はコレステロール。序盤から軽快に飛ばしている。
「わ、速い!」
「やっとAさんを背に乗せられたから嬉しくて張り切っているみたいですね!」
今日は清八さんの前に乗せられている。これだけ速いと後ろに乗るのは難しかっただろう。
ところで、加藤村というのは令和で言う甲賀市辺りなのではないかと思っている。だとすれば私の住んでいた伊賀と山一つ挟んで隣だ。
どうして覚えているのかは分からないけど、伊賀から大阪寄りの和歌山まで高速道路を使って2時間ほどだと記憶している。それが車ではなく馬での移動で、且つ舗装もされていないグネグネ山道を行ったとしたら、一体どれほどの時間が掛かるだろうか。
「…あ、虹!」
山の近くに綺麗に架かる虹を見つけた。
「本当ですね。弱ったな…」
綺麗ですね、と言おうとしたのに清八さんは困ってしまった。
「虹って見かけると良くないんですか?」
「『朝虹は雨、夕虹は晴れ』って言葉があります。これから天気が崩れるかもしれません」
「そうなんですか、それは困りましたね」
山へ近付いてゆくと空気が段々と湿気っぽくなって来て、雲行きも怪しい。やはり昔の人の
天気予報だけ見ればよかったから、私は空なんてあんまり見上げなかったなぁ。
「これはまずいですね」
清八さんは馬を一旦止めて、懐の書状を小さく丸め、革の巾着袋に突っ込んだ。
「この空模様では、迂回したとしても降られるでしょうね…。多少濡れますが大丈夫ですか?」
「私の事は気にしないで下さい!」
「分かりました。この先の山の麓に廃坑道があります。雨の中、無理に山道を行くのは危険なのでひとまずそこでやり過ごしましょう。そこまでに降られないといいのですが…」
清八さんの願いも虚しく、大粒の雨が降り始め、乾いていた土の道はあっという間にあちこちに水溜まりを作り、廃坑道に着く頃には私達もしとどに濡れた。
「盛夏とは言え、これだけ濡れると肌寒いですね」
「おかみさんから渡されていた小袖が無事ですから着替えて下さい!私はあっちを向いていますから」
ありがたいことに何枚も重なっていたから行李の中の方の小袖は濡れていなかった。
「ありがとうございます。着替え終わりまし…ヒェ!?」
振り返ると清八さんは褌一丁で小袖を絞っていた。
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年10月11日 16時