蛸壺漁の段(重視点) ページ44
Aが笑ったことで、その場の空気が軽くなった。
「女遊びは程々に、ですよ。
「なっ、その呼び方…」
「仲間っぽくて羨ましいなって思ってたんです。それに、遊びなら身内には手を出さないかなって思いまして」
「なるほど、牽制って訳か。こりゃあとんでもない大物に手を出しちまったようだ。なァ、Aよ」
この瞬間から兄貴もちゃん付けをしなくなった。雨降って地固まる、てやつかな。
「酒が飲めねェのに無理して飲んだその意気を買って、俺もこれから女ではなく仲間としてお前の事を見るからな」
「…はいっ!!」
Aは満面の笑みで返事をした。対等に見られたのがさぞかし嬉しかったんだろう。
「ところで重は何しに来たの?」
まだ顔の砂を払っていた網問が訊く。
「ああ、そうだった。蜉蝣の兄貴からAを呼びに行くよう言われて。洗濯がまだなら手伝ってから二人で来いって」
「きっと蛸壺漁だ!早く終わらせて行かなきゃ!」
いくら好物だからって、漁まで見たいもんなのかな?
「三人でやりゃあすぐだな。俺は持ち場に戻るよ。さすがに兄貴に怒られちまう」
格好つけて片手を上げて「頑張れよ」と残して去っていったけど、頬には立派なモミジがついているんだよなあ。
「よし!私洗うから網問干してって」
「分かった!おっ、見て見て〜重の褌見っけた〜しげふん〜」
「だから何だよ!人の褌振り回してないで早く干せ!」
「はいはい〜」
◆
「蜉蝣の兄貴〜!」
「お待たせしてすみません!」
「いえ、来られるまで他の仕事をしていましたから。こちらこそ急かしてしまったみたいですみません」
西の入江で荷物を運んでいた蜉蝣の兄貴は、手甲で額を拭った。
「この辺りに蛸壺がいくつか沈めてあるんですが、私と重で潜って一つずつ確認し、中身が入っていたら蛸壺をここまで持って来ますので待っていて下さい」
「分かりました、気を付けて下さい」
「ありがとうございます。それじゃあ重、行こうか」
「はい!」
俺達が小袖を脱ぐとAは「ギャ!?」と奇声を発して目を覆った。
袴は穿いたままだし、裸なのは上半身だけなんだけど…。
「男の上半身を見るのも照れるのか?Aは本当に恥ずかしがりだな!」
これなら羞恥のあまり義丸の兄貴の頬を張ったって納得だ。
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玉虫厨子(プロフ) - 炭酸さん» わ〜〜!めちゃくちゃ嬉しいコメントありがとうございます!!私もタカ丸さん出てくる場面は筆が走ります!まだ先の話になりますがいつかはタカ丸ルートも書きたいので、どうか気長にお待ち頂ければと思います。 (9月21日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
炭酸(プロフ) - ああああああ面白すぎて一気に読んでました!!最高すぎます、神はここにいた、、、特にタカ丸君が出てきてくれる作品を今だに出会えてなくて、それがやっと出会えて!!しかも神作で!!!本当ありがとうございます!!大好きです!! (9月15日 2時) (レス) @page30 id: 5dbdfb3851 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - れなさん» て、天才…!?恐縮です…!お気に召したようで私も嬉しいです。完結まで宜しくお願い致します! (9月9日 2時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
れな(プロフ) - 文才天才すぎます、、めちゃくちゃ好きです、ときめきも笑いも盛りだくさんでとっても好きです、、これからも更新楽しみにしてます!完結までぜひついて行かせてください。 (9月8日 15時) (レス) id: 5c55cc0d78 (このIDを非表示/違反報告)
イリア(プロフ) - コメ返ありがとうございます!鹿之助さんや清八さんなど他ではなかなか拝む事が出来ないキャラを出して下さるのもすごく感激です!キャラが出るたびワクワクして読ませて頂いてます!どうか玉虫様のご無理のないペースでお待ちしてます、これからも応援しています! (9月7日 23時) (レス) id: 97fc43e259 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年9月4日 4時