其の肆(鹿之助視点) ページ42
成程ね。
忍たまから寄せられる視線は不快だが、Aさんを手に入れし者として認識されるのは悪い気はしない。
「…どうしました鹿之助さん?」
「何がです?」
「口角が上がっていらっしゃるので」
「…ゴホン。いえ、何も。おばちゃんの料理が美味しかったのでつい」
「分かります!今日は特に酢の物に蛸が入っていて最高ですよね!」
急に瞳をキラキラと輝かせてこちらに身を乗り出すAさん。
「蛸が好きなんですか」
「はい!私の好物でして!」
久しぶりにこの笑顔を見られた。廃れた私の心のひび割れに染み入るようだ。堪能しつつ、この状況を利用して更に忍たまより頭一つ飛び抜けてやろうじゃないか。
「それじゃあ──」
私の小鉢からAさんの口の隙間に素早く蛸を差し込む。
「私の分もどうぞ味わって下さい」
Aさんの頬がみるみる紅潮する。
食堂内が一瞬しんと静まり返り、一拍のち再び喧しくなった。
はっはっは!見たか忍たまよ!お前達の失礼な視線を逆手に取ってやったぞ!
潮江なんか口をあんぐり開けておかずを皿に落としたぞ。
「私の蛸も美味しいですか?」
同じ料理なんだから変わる訳ねーだろ!という負け惜しみもどこからか聞こえる。
照れて口元を押さえつつ、咀嚼して飲み込む。私の蛸をだ。明らかに私の気分は高揚した。
「こ、こういう事は金輪際やめて下さい!」
「Aさんは恥ずかしがり屋なんですね」
「〜〜〜お風呂の時間なのでお先に失礼します!!」
先に出て行ったAさんを、優越感に浸りながらゆったりと追った。
「デモシカさ〜ん!」
部屋に戻る途中、小松田君に呼び止められた。
「学園長先生に言われてAさんのお部屋にお泊まりセットをご用意しておきましたので〜」
「助かるよ、わざわざありがとう」
「いえいえ〜ごゆっくり〜」
小松田君が去った後は、寝巻きを持ったAさんとすれ違う。
「お先にお風呂頂きます」
「ええ、どうぞ」
私もすぐに入ろうと思う。そうすれば湯上がりも大体同時刻になり、夜過ごす時間が少しでも増えるだろうと考えてのことだ。
Aさんの部屋には畳まれた布団一式、寝巻き、手拭いが置かれていた。さすがに褌の替えはなくて、今着用のものを湯上がり後も使い回さねばならないが、忍者たるものそんなことに不満を言ってはいられない。
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玉虫厨子(プロフ) - 澄香さん» コメントありがとうございます!需要あってよかったです!! (5月8日 6時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
澄香 - いけいけどんどん!!!出茂鹿之介の需要ありまくりです!!!! (5月8日 1時) (レス) @page50 id: b225fd04a2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あもさん» ありがとうございます💓 (12月18日 9時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
あも(プロフ) - ヤバい/// 出茂鹿・・・好きッ♡♡♡♡♡♡♡♡ (12月18日 8時) (レス) @page48 id: 769dab171c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - あーちゃんさん» ありがとうございます! (9月4日 4時) (レス) @page50 id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2023年8月21日 7時