其の肆 ページ8
「見ます」
私が宣言すると、伊作君は座りながら自分の膝を抱き込んだ。
深呼吸をして、お守り袋を逆さにすると、クリーム色の小さな塊がフローリングにカランと音を立てて転がった。
「動物の歯?」
それだけでは何か分からず、本命の紙の方を取り出す。小さく折り畳まれたそれを一つ、また一つとゆっくり折り目を広げていく。そうして最後の折り目に差し掛かった時、薄らと絵らしきものが描いてあるのが裏側から見えた。
きっとこの歯を生やしていた動物が描いてあるのだろう。そう思って開く。
予想とは反して二人の男女が描かれていた。ボサボサの髪、初夏の太陽のような爽やかな笑顔、黒々とした凛々しい太眉。その横に書かれていた名は──
「竹谷、八左ヱ門……」
彼の名を呟いた途端、室町で過ごした半年間の記憶が波のように押し寄せる。ああ、そっか。私は昨日の朝に彼に殺されてこちらへ帰って来たんだ。
「思い出しました?」
「ふふ、うん。一つ下だった文次郎君が学校の先生なんて変な感じ。喜八郎も私より歳上だしねぇ。それから伊作君」
びく、と肩が揺れる。
「私のことを好きでいてくれてたのに、私が八左ヱ門と恋仲になる結末を覚えているなんて、一人で辛かったよね」
「……辛いのはAちゃんも同じだよ。好いた人がこの時代に居ないかもしれない。居たとしても、既婚者の可能性もある。世代が違い過ぎるかもしれない」
「うん。でも私は八左ヱ門の存在した証を探さなきゃならない。そう約束したからね」
「だったら、Aが最期を迎えた丘に行くべきだな。あそこには竹谷が木の苗を植えたんだ。皆、“Aの木”って呼んでいた」
「僕が卒業する頃もまだ幼木でしたけど、あれからどうなったんでしょう」
文次郎君と喜八郎が言う。でも木には寿命があるし、ひらけた丘にポツンと生えていたら雷も落ちやすいだろうな。残念だけどもう──…
「今も残っているよ。兵庫のとある有名私立大学の中に“Aの木”はある。Aちゃんの第一志望大より偏差値が10ほど上だけれどね」
「調べてあるのか!」
「勿論。思い出す可能性がある場所を排除する為に、だったけどね」
確かに、第一志望は伊作君の勧めで決めていた。教えてくれるということは、伊作君も八左ヱ門の足跡を辿るのを応援してくれるのかな。
「伊作君、教えてくれてありがとう…!!」
33人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
玉虫厨子(プロフ) - ゆずぎょうざさん» 拙作で泣いて頂きありがとうございます!竹谷ルートはシリアス多めでしたね、、ご心配をお掛けしました😂潮江ルートの方もどうぞ宜しくお願いいたします🙇✨ (4月21日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
ゆずぎょうざ - 完結お疲れ様です!とても感動して泣いちゃいました!途中シリアスで最後までハラハラしていましたがハッピーエンドで良かったです😭潮江ルートを今から読みます!これからも頑張ってください🙇 (4月21日 7時) (レス) id: 03a920b2e2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - コトハさん» 応援ありがとうございます!竹谷ルート楽しんで頂けて良かったです✨潮江ルートも読んで頂けるとのことなのでより一層頑張りますね! (4月19日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
コトハ(プロフ) - 竹谷ルート完結お疲れ様でした! 本編に続き竹谷ルートのお話も素敵ですごく魅力されました!次の潮江ルートも楽しみに読ませて頂きますね、これからも応援しています! (4月19日 7時) (レス) id: 08d8a5b782 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» ありがとうございます!不安にさせてしまいすみませんでした🙇シリアス書くの楽しかったのでまた不安にさせてしまうかもしれませんが次作も宜しくお願いいたします! (4月8日 20時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2024年3月28日 9時