夢の男の段 ページ1
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「綺麗だよ、A」
また夢を見た。
そっと優しく腕を引かれる。
だけどそれはさっきの伊作君ではない。
白っぽい、無地の浴衣のようなものを着たうら若い男が、口付けを落として私の名前を熱っぽい声で何度も呼ぶ。
そのうち、男は自分の着ていた服を剥ぎ取って、私の襟に手をかけた。私は無抵抗で、いやむしろ能動的に、男を受け入れた。
目が覚めると、私は男の腕──ではなく、伊作君の腕の中にいた。
「ふふ。おはよう」
「えっ!あっ、おはよう…じゃなくてこれは!違うの!別に夜這いに来た訳じゃなくて!」
「分かってる。
「ううん……私こそ、忙しいのに来て貰って、私の居ない時にレポートしてただなんて、何と言うか……」
「昨日言ったでしょ?僕がそうしたいんだって。何を犠牲にしてもAちゃんと一緒に居たいんだ。それだけ惚れてるってこと!」
「そっ、そうですか」
一晩を共にしたからか、伊作君は上機嫌だ。
「それにね、Aちゃんが僕の腕の中で寝言で好きって言ってくれたんだ」
──果たしてそれは、伊作君に向けて言ったのだろうか。私は夢の中の若い男に向けて好きだと言ったのではないだろうか。
自分が言われたものと信じて疑わない伊作君にちくりと罪悪感が胸に刺さる。
「さ、朝食にしようか。僕が作るよ」
「えっ、いいよ、私作るよ!」
「絶対安静って言ったでしょ?洋食と和食、どっちが良い?」
「…和食で」
「ん、分かった。待っててね」
にこ、とあの優しい笑みをこちらに向け、冷蔵庫を開ける伊作君。私はその間に布団を片付けようと畳んでいると、「安静!」と怒られてしまった。
30分後、私の前に立派な塩鮭定食が並んだ。ご飯、味噌汁、塩鮭、だし巻き卵、ほうれん草のお浸しまで……。
「レパートリーが無くて、和食って言ったらこれしか作れないんだけど……」
「美味しそう!!」
「おばさんには敵わないと思うけど、食べよう」
そんな事ない。伊作君の料理はどれも絶品だった。
「めちゃくちゃ美味しい〜〜っ!」
「そう?頑張って作った甲斐があったなあ」
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玉虫厨子(プロフ) - ゆずぎょうざさん» 拙作で泣いて頂きありがとうございます!竹谷ルートはシリアス多めでしたね、、ご心配をお掛けしました😂潮江ルートの方もどうぞ宜しくお願いいたします🙇✨ (4月21日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
ゆずぎょうざ - 完結お疲れ様です!とても感動して泣いちゃいました!途中シリアスで最後までハラハラしていましたがハッピーエンドで良かったです😭潮江ルートを今から読みます!これからも頑張ってください🙇 (4月21日 7時) (レス) id: 03a920b2e2 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - コトハさん» 応援ありがとうございます!竹谷ルート楽しんで頂けて良かったです✨潮江ルートも読んで頂けるとのことなのでより一層頑張りますね! (4月19日 8時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
コトハ(プロフ) - 竹谷ルート完結お疲れ様でした! 本編に続き竹谷ルートのお話も素敵ですごく魅力されました!次の潮江ルートも楽しみに読ませて頂きますね、これからも応援しています! (4月19日 7時) (レス) id: 08d8a5b782 (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» ありがとうございます!不安にさせてしまいすみませんでした🙇シリアス書くの楽しかったのでまた不安にさせてしまうかもしれませんが次作も宜しくお願いいたします! (4月8日 20時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2024年3月28日 9時