其の漆(八左ヱ門視点) ページ7
「え?ああ!?まだ水入れてなかったんだった!」
甕の水を入れると、焼石に水を掛けたようにじゅわっと音を立てて蒸気がもうもうと立ち上がる。その隙に三郎は姿を消していた。
「あれ?三郎いなくなっちゃった…。結局ややが何なのか教えて貰えなかったな。八左ヱ門、知ってる?」
「え!?ま、まあ…でも今は樹液を作ろう!!な!?」
「そうだね!」
俺達は人工樹液作りを再開した。
三郎の“Aを譲ってやった”という言葉。単に揶揄う相手としてではなく想いを寄せていたのなら、俺とAの接吻を目の当たりにしてさぞ心苦しかっただろう。それだけじゃない。俺の相談にも乗ってもらった。
これは何が何でもAを幸せにしなければ。責任重大だな。
「できた〜!」
再開してしばらく。ようやく樹液のようなものが完成した。量もカナブン一匹からしたら申し分ない。
Aは一息つくのに食卓に突っ伏した。
「ふう、疲れた。カナブンは?」
「そこの虫籠の中だよ」
「んー?いないけど?」
「えっ、そんな馬鹿な…」
死角になったいるところにいるのだろうと思い中を覗くが、カナブンは籠にはおろか、食堂のどこにもいなかった。
「外へ逃げた…!?」
「……、さすが生物委員会の虫だね?」
妙だ。カナブンは光に集まる習性があるから明かりのついている食堂より暗い外や廊下に出て行くのは考えられない。きっと食堂の中にいるんだろうが、この暗さ故見つけられない。
「でもせっかく作ったのに…」
「樹液は皿に入れて置いておこう。匂いにつられて食べに来るかもしれないから」
「うん、そうだね」
「金平糖、ありがとうな」
こっそりくすねてあった金平糖を二粒、懐から取り出した。
「あっ!それ…」
「元は俺と一緒に食べる為に買って来てくれたんだよな?全部カナブンに取られるのは悔しかったからさ」
そうして二粒とも自分の口の中に放り込んだ。
「ああっ!?普通半分こするでしょ──」
すかさず口付けし、舌で金平糖を一粒、Aの口の中に押し込んだ。初めて感じたAの舌。ぬるりと滑らかで柔らかく、温かい。
「んっ!?」
「一緒に食べると一層美味いな」
「一緒に食べたいって、そういう意味じゃない…!」
(もっとくすねておけば何度かできたかなぁ)
この日、雨降って地固まるように俺達は更に仲を深めたが、その地盤が脆弱極まりないものであったと気付かされるのは翌日の事である。
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玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー!一気読みありがとうございます! 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました!どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる!笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです! (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです!どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます! (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも!!めちゃおもろいです! (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2024年2月2日 21時