【忍たま】君の想いは花筏【竹谷八左ヱ門ルート２】

其の弐（八左ヱ門視点） ページ48

「中断させてしまいすみません」


「いいや、竹谷が自主的に早く来たので始めていたのだ。
竹谷、この骨格標本をAと想定して斬るふりをしてみろ」


「……はい」


骨格標本に正面から向かい合い、刃先を当ててしまわないよう距離を取った。そして右斜め上へ振り上げ、頸めがけて左斜め下に向かって振り下ろした。


「袈裟(けさ)斬りですか」


「そうだ。上手くいけば大量に失血する。それに竹谷は横一文字斬りよりも袈裟斬りの方が力を乗せ易そうだったのでな」


「しかし斬首ならば頸の後方から斬りかかるのが一般的ではありませんか？」


立花先輩が発言する。


「一太刀で斬り落とす事は不可能。大抵は五、六回刃を振り翳す事になる。そうなれば竹谷の負担も大きい。善法寺伊作、お前はどう考える？」


「袈裟斬りなら一太刀で頸動脈切断まではいけます。頸椎の破壊から多臓器不全に持っていくよりは失血させた方が絶命までの時間は早いかもしれませんね」


それでも立花先輩は納得していない様子だ。


「しかし……暫しの間耐え難い激痛を感じる事になるでしょう。後方から頸椎を狙う方法であれば、上手くやれば一太刀目で気絶させられます」


「私もそれを考えなかった訳ではないが、最も優先すべきは彼女を素早く死に至らしめる事だろう。痛みを逃すことに気を取られ即死出来なければ本末転倒だ」


伊作先輩は双方の話を聞いて暫し思案すると、俺の真向かいに胡座をかいて座った。そして組んだ脚の窪みに骨格標本をこちら向きに座らせ、頸を向かって左側へ傾げさせた。


「だったら、僕がこうしてAちゃんを後ろから支える。竹谷が一太刀浴びせたら、即座に僕がAちゃんの頭を後ろへ引いて頸椎を折る」


「それなら痛みも一瞬だな。伊作、竹谷、任せたよ」


「しかし伊作先輩、それでは…！」


「僕なら構わない。Aちゃんを少しでも楽にする為に手を加えるだけだから。竹谷は確実に頸動脈を切断する事に心血を注いでくれ」


動物は頸椎が破壊されれば死ぬ。伊作先輩はああ言うけれど、結果として殺人の片棒を担ぐのと同じだ。俺に責任を感じさせないようにそうやって言って下さっているんだ。

ただ、伊作先輩には申し訳ないがAがすぐに気を失えることに幾分か気が楽になった。激烈な痛みを感知した瞬間にはきっとAも楽になれる。そしてこの配慮に至ったのは立花先輩のお陰だ。本当に有り難い。

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