其の漆 ページ41
「孫兵君も色々とありがとう。あんな量、一人じゃ到底捕まえられなかったよー」
「いえ、僕も楽しかったですよ。しかし本当にあの量を一人で調理するつもりですか?虫が苦手じゃなくても大変ですよ」
「うん。そこは誰の手も借りずに一から仕上げたいんだ。作り方は食堂のおばちゃんに口頭で教えて貰えることになっているし、味見もしてくれるっていうから問題ないよ。ほら、私食べたことなくて味分からないからさ」
「そうですか。では当日楽しみにしていますね」
「あはは。あんまり期待しないでね〜」
孫兵君とも別れ、私は野村先生の元へと向かった。
「野村先生、Aです。ご在室でしょうか?」
どうぞ、と入室許可が出る。
「失礼します」
野村先生のお部屋へは吉野先生のお手伝いで何度か訪れているけれど、先生はいつも文机に向かって姿勢をピンと伸ばし、きりりとした顔で迎えてくださる。しかし今日はそうではなかった。私が戸を開けた瞬間に、先生は険しい顔で勢いよく立ち上がられたのだ。
「どうされたんですか?」
「いや…何だか異臭がしたような気が…。私に何か用ですか?」
私の持ってきた小さな壺を凝視して訊ねる。確かに取り乱しておられるけれど、思っていた反応と違ったなぁ。
「先程、杭瀬村へ行ってきたのですが、」
「杭瀬村!」
「はい。大木雅之助さんが、」
「大木雅之助!!」
「……。大木さんがこれを野村先生にお渡しするように、と」
床に置いた壺を先生の前へ置くと顰め面で掴み上げた。
「野村先生、それは一体何なのですか?」
「君は何も知らされず持たされたのですね。これはらっきょう漬けです。そして私はらっきょうが大の苦手なのです」
先生は臭いがこもるからという理由でらっきょう漬けの小壷を一旦部屋の外へ閉め出した。
「そうだったんですね。せっかく頂いたのに残念ですね」
「いいや、わざとだ!奴がまだ忍術学園の教師をしていた頃、何かにつけて私と張り合っていたのだが、ある日私がらっきょうが嫌いなのを知り、忍術学園を辞めてらっきょう農家になったのだからな!!」
怒りのあまり口調が変わってる…。しかし大木さんはライバルを倒す為に転職までするのか!?恐るべしど根性…!!
「しかしどうするんですか?あのらっきょう漬け」
「らっきょうに罪はありませんから誰かに譲ることにします」
そうして数日間、食堂ではご飯のお供が一品増えたとご満悦のしんべヱ君が見られた。
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玉虫厨子(プロフ) - 麗羅さん» わー!一気読みありがとうございます! 私もどんなエンドを迎えるのか言いたくてうずうずしてしまいます笑 (2月14日 20時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
麗羅(プロフ) - すごく面白くて、一気に読んでしまいました!どうなってしまうんでしょうか…。ハッピーエンドじゃなかったら悲しすぎる!笑 (2月14日 10時) (レス) id: 06bc0a6cee (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - Maさん» いつもありがとうございます💓楽しんで頂けて何よりです! (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
玉虫厨子(プロフ) - ねこさん» コメントありがとうございます🙇夢中とのことで嬉しいです!どのような結末にするかは決めているので、メッセージで質問頂けたらお答えできます! (2月13日 22時) (レス) id: 9682a1978c (このIDを非表示/違反報告)
Ma - 鬱展開なのか...それとも...んでも!!めちゃおもろいです! (2月13日 22時) (レス) id: 8c9f415f7b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:玉虫厨子 | 作成日時:2024年2月2日 21時